夢見の異邦
タバサを救い出した。しかし、世界樹の苗木は奪われたまま。
父、グランバニア王に一部始終を報告。
王は一喝し、謹慎を申し渡す。
王という身分、この現状では息子にご苦労だった休めなど柔らかく伝えられなかった。
謹慎中のレックス。窓から映る風景は月明かりが照らし出す。
「お兄ちゃん・・・」
窓辺から声がした。隣の部屋のタバサ。
月明かりが照らすタバサは美しく、日に日に増す可憐さを際だ出せていた。
「ごめんなさい、私がついてこなければ・・・」
「タバサがいなくても世界樹の苗木は奪われていた。あの時タバサがいたからこそ俺は生きながらえたんだ」
詫びるタバサを制すレックス。絹の寝装に目のやり場に戸惑う。
「もう寝たらどうかな?つかれただろう」
「うん、そうする・・・ねえ、お兄ちゃん」
「なんだい?」
「今日、いっしょに寝ちゃだめかな?」
「そ、それはだめだな。バカいっちゃいけないよ」
「え〜、ダメ?残念・・・」
からかっているのか、悪戯気な笑みを見せるタバサ
「なんだか寝付けないんだもん。良くない事が起こりそうで」
笑みが一転、不安げに俯く。
「心配するな!何かあれば飛んできてやる!」
「うん、お兄ちゃん」
タバサは床に就いた。レックスは少し物思いにふけった後、寝息を立てた。
「伝説の勇者も寝ていれば可愛いだねえ」
けらけらと笑う声。妖精らしき風貌の者がレックスの前に降り立った。
「このまま深く寝入っていておくれよ、ちょっと面白い世界に案内してあげるから」
レックスは夢に落ちる。その夢は望む夢か悪夢か。
グランバニアは淡紫の霧に包まれた。
城門を覆う人垣。今か今かと待ちわびる。
門番も人垣を押せ得るのに必死だ。
レっクスはその人垣に潜り込み視線の先を追う。
「静まれ!」
城門を見渡すバルコニーから怒号が飛ぶ。猛々しいの声、パパス王。
昔、父の記憶の断片から見た祖父パパスに瓜二つ。
ただ衣装のためか王者の風格はこちらのパパスをの方が感じられた。
「何の噂を聞きつけたのかは知らぬが私は娘をショーの景品にした覚えは無い!」
「そして見世物にした覚えも無い!お引取り願おう!」
烏合の衆がガッカリとばかりにため息を漏らす。しかし散り行く気配は無い。
「お父様・・・何事ですか?」
透き通った女性の声がした。男達はその声に歓声を湧かす。
「なんでもない!タバサ、おまえは下がっていなさい!」
パパス王の怒声に顔を出した少女。
タバサだ。紛れも無く妹のタバサ。長く伸ばしたその絹の光沢を持つ髪、吸い込まれそうなほど澄んだ瞳。
違うはずも無い。
「なぜ!?どうなってるんだ?」
レックスは門番に押し流された人垣に流され城門から離されていく。
その日は城下に向けてグランの姫君が顔を見せることはなかった・・・・・・。
「落ち着いたかな?さあ茶でも啜りなされ」
小さな山小屋。老人宅に招かれたレックスお言葉に甘え、茶を頂く。
「泣いた方がいいこともあるもんじゃ」
老人は急く事も無くただ和やかに微笑んだ。レックスは躊躇いつつも自分の見のうちを明かした。
不可思議な点の多い話、信じてくれる事はないだろう。しかし老人は話を摘む事も無く黙ってレックス話を聞き続けた。
一部始終話した。気がつけばここに居たこと、祖父がパパス王でその娘は自分の妹である。戯言と変わらないこの内容。
老人は話を聞き終え、口を開いた。
「不思議な事があるものじゃ、おぬしは流れてしまったんじゃな、この世界に」
「しかしその立場の変わってしまった人々は本当におぬしの事を知らぬのじゃろうか?」
「この世界にも立場が違うおぬしがいてもおかしくなかろう」
この世界での立場が違う自分・・・、想像もしなかった。
「わしは魔術の心得も無ければそういった不可思議なことへの知識も乏しい」
「どうしたらおぬしが元の世界に戻れるのかもわからん」
「この世界も悪くない、しばし見回ってみてはどうじゃろうか?」
「おぬしのいたところでは見えぬもの、それが見える場所なのかも知れんぞ」
コクッとレックスは頷いた。
明日、タバサに会って見よう。この世界に生きるタバサに僕はどんな存在なのだろうか?
興味がわいた。
レックスは今グラン場内にいる。とても話して通してくれるはずも無かった。
「盗賊だなこれじゃあ」
苦笑し進む。場内に不審者が侵入したという一方は今のところ無い。
タバサは城の最上階にいるようだ。足音を殺し進み続ける。
タバサがいた。椅子に腰掛け、退屈そうに窓を見つめる。どこか儚げだった。
「タバサ」
レックスは声をかけた。タバサはいつもなら笑みをこぼし「何?お兄ちゃん」と。
やはりこのタバサはレックスの知るタバサではない。驚き悲鳴を上げようとする。
たまらず口を塞いだ。
「僕はレックス。わかるかな?」
タバサは首を振る。やはりこのタバサは自分の事を知らない。別のタバサなのか。
タバサはレックスの手をどかし、口を開く。
「レックスって勇者レックス?」
思わぬ事を口にした。
「そうだよ、タバサ。僕がわかるのかい?」
「ええ、伝説で語り継がれた勇者様でしょ。みんな知っているわ」
どうやらこの世界のレックスは伝説の中の住人らしい。知る人はいたがこれでは・・・
「どうやってここに入ってきたの?外は衛兵さん達でいっぱいのはずよ?」
「勇者だからね、これくらい簡単さ」
おどけて見せる。いつもタバサにしているように接してしまう。
「私に何か御用?」
説明したところで誰が納得してくれようか。伝説の勇者は知恵を絞る。
「囚われの姫君を助けに来たですよ」
詩人風に気取ってみた。出来はイマイチ。
「本当?じゃあ助けていただこうかしら?伝説の勇者様」
話が思わぬところに転んだ。
「助けるって?」
レックスはグランの王女に尋ねた。
「わたし、お城か出たことがないの。だから出てみたいの」
訴える目はいたずらっけが感じない。王女は本気のようだ。
「外に集まっている人たちが何を言ってるのか知ってるの。」
「私は誰の妻にもなるつもりは無いわ。」
「今はお父様が止めてくださっているから大丈夫だけど、いつかは・・・・・・」
端正な顔が少し辛く歪んだ。誰かに娶られることに苦痛を感じているようだ。
「初めて城下に来たのが嫁入りの時だなんておかしいじゃない?ね、お願い。」
拝む王女、ずいっと顔が近づく。本当にタバサによく似ている。
思えばタバサもよくこうして厄介ごとを頼んでくれたもんだ。レックスは思い出し笑みをこぼす。
「んー!?バカにしてるでしょー」
笑ったレックスにむくれっつらになる王女。
「流から守るもエスコートするのも勇者の役目。お供いたします、お姫様」
道化師のようにおどけお姫様の用件を快諾するレックス。おかしな道中が始まった。
グラン城には隠し通路がある。緊急避難用に作られたその通路は城下はおろか城内の者にさえすっかり忘れ去られていた。
彼女はその通路を知る。なぜ知っているのか今まで使わなかった理由。何かわけがありそうだった。ただ上機嫌に話すタバサの話相手をしてる間はその話題振ることは避けた。
「お父様はねきっとね、あたしをお花と勘違いしてるのよ。本当過保護なんだもの」
花を大事にするパパス、似合わなさ加減が笑えた。男親は娘を過保護にしがち、不器用ながらもそれが王の親心なのだろう。
薄暗い階段を上り、錆びた錠前を外せば、林の中に出る。林は町の辺鄙な場所にあり、隠し通路としての機能性は十分だった。
レックスはヒョイと階段を駆け上がり錠前を外す。
王女はそこで進むのを躊躇う。何か不安げでおどおどしていた。
レックスは半ば強引にタバサの手を引き、出口である林に連れ出した。
タバサは大きく息を吸い空を見上げた。日差しが眩しい。
「ありがとう!わたし、初めて外に出られたよ!本当にありがとう!」
タバサは感激していた。地上の土に、場外から見る違った空の青さに。
「この通路を見つけたのはずっと前、何度か出ようと思ってその錠前のところまで来たんだけど・・・」
「勇気が無くて・・・、いつもそこまで。レックスが手を引いてくれたから初めて出られました。」
「お礼を言うのはまだ早いよ」
レックスはあまりに感激するタバサに照れながら諭す。
「さあ町に行こう。」
「うん!」
タバサはレックスの手を取り町に案内してもらう。すべてが新鮮に映ったようだ。何かある度レックスに尋ねる。
道具屋があればここは何するところか聞くし、武器屋があれば聞く。町のすべてが好奇心を刺激するのだろう。
城下の目を避けるため深くかぶったフードの奥の瞳は宝石のように輝いているに違いない。
いつかのオラクルベリーで遊覧を思い出した。
あの時もこんな感じで二人で歩いた。
そこでローブの男が来て・・・
「ほっほっほ、仲がよろしいところ恐縮ですが・・・」
「!?」
「そこの道を左に曲がると宿屋ですかな?といいたかっただけです!!ヒーーー!!」
レックスはつい剣を抜いてしまった。
旅人は恐れをなして逃げ出した。
町の中に一つ、教会がある。今日はそこで結婚式が行われていた。もちろん顔を出す、結婚式も初めて見るだろう。
純朴な新郎と清楚な新婦。友人親族が二人の幸せを願いかける。微笑ましい光景だった。
「レックスは年いくつ?」
不意にタバサがたずねてくる。
「16、君のほうは?」
双子だから同じだろう、と言いかけてやめた。
「同じよ。」
やはり同じだった。この国のタバサ姫は妹とほとんど変わらない。
「なんで年を?」
「結婚できるかなって・・・」
ドキッとした。
「冗談よ」
そしてがっかりした。何か弄ばれている気がした。
「私ね、結婚ってもっと嫌なもんだと思ってたの。でもね、あの二人を見てたらそうわけでもないんだってわかった。きっと自分で勝ち取って切り開いて掴む物なのね・・・、結婚って」
「私もあの二人みたいな結婚式があげたいなって思っちゃった。」
「あげれるさ、きっと」
「そう?でもいい人が見つからないと・・・」
「君なら見つかるさ」
なぜだかチリッと胸が痛んだ。
「さあそろそろ城に戻ろうか」
空は夕闇が迫っている。そろそろ戻らなければ騒ぎが起きるかもしれない。
「うん、でもお部屋までついて来て!渡したい物があるから」
駆け出して城へと急ぐ。来た時と同じようにあの隠し通路を使った。部屋へ向かう間、何やら城内が慌しい感じがあった。まさかばれたのか?
王女の部屋につく。タバサは扉にかけた鍵を解き、箪笥を探り何か持ってきた。
それは小さな石のついた首飾り。友愛の証だった。
「これをレックスに持っていて欲しいの。今日のお礼」
「お気に入りだから大事にしてね。」
タバサはレックスの首につけた。
「また遊ぼうね・・・」
レックスは黙って頷き、窓から忍びか怪盗のように退散しようと試みた。
が、タイミング悪く、その時に激しくドアをノックする音がした。
「隠れて!」
レックスはクローゼットの中に一目散に転がり込んだ。
「失礼いたします!!」
メイドがドアを開いた。とても慌てていた。本来なら許可を得て扉を開く者なのだが・・・
レックスがクローゼットに隠れきったのは間一髪といったところだった。
「姫様!今日はどこにおいでだったのですか!?」
「ちょっと書斎で本を・・・」
「そうですか?あれ?書斎も行ったような・・・いや、そんなことはいいんです!!」
「陛下が・・・陛下が・・・あー、オロオロオロ・・・」
「お父様がどうしたの?何があったの?」
「お隣のラインフェルト国に出かけられたのはご存知だと思います。」
「ええ、たしか三日前に出られたはず・・・それが何か?」
「その時、護衛でついていた兵士が傷だらけで戻ってきたのです!!」
「え!?」
「詳しくは大臣様に・・・さあ姫様、こちらへ!」
足音が聞こえた。真っ暗なクローゼットの中、レックスは出るに出れずそのまま王女が戻るのを待った。
そろそろ息苦しさに限界が来たなというとき、ドアがバタンと閉まる音がした。
「レックス・・・。まだここにいるの?」
「ああ・・・」
クローゼットから颯爽と現れようとして足がもつれた。
ぷっと吹き出すタバサだったがすぐに表情は暗くなる。
「お父様がね、今お隣のラインフェルトに囚われの身になってらっしゃるの・・・。」
「ラインフェルトはずっと私に王子の嫁になれってひつこくて・・・。今回はお父様が直々にお断りしにいったのね」
「それじゃあ着くなり大勢でよってたかって・・・。ああ、お父様・・・」
タバサは手で顔を覆った。
「私がラインフェルトの嫁になればお父様は解放するといってるらしいの。」
「でもこのまま返事を渋るようなら戦争も辞さないって・・・」
「わたしどうしたら・・・」
父の事を考えただけで涙が溢れる。今パパス王は拷問にかけられ結婚の承諾を勧められているのかもしれない。
レックスの祖父と同じ性格だとしたら王は死んだとしても首を縦に振ることは無いだろう。
拷問が苛烈になる前に救い出さねば・・・・・・。
「僕が王様を助けてあげるよ。」
「こう見えても伝説の勇者、だからね。」
親指を突き出しウィンクしてみせる伝説の勇者。覇気に満ちた表情と思いやりのこもった目。
「レックス・・・」
「君は大人しくお城で・・・」
「ありがとう。でも私が行かないと」
王女の身を案じ、残るように言う前に反対されてしまった。
「お父様は私のために酷い仕打ちをされてるの。わたし、じっと待っていられない。」
「そうか、わかった。」
決意の固さ。このあたりも妹に瓜二つだなと思った。
お姫様と勇者。目指すは隣国ラインフェルト・・・・・・。