世の闇を払いし者、天空の武具を身に纏う者。
グランバニアの王子レックス。
平和が戻りし今、彼はその日々にいささか倦怠感を感じていた。
城の高台から眺める風景はいつも穏やかで何も変わらない。
つい父と共に旅をしていた頃を懐古する。
そんな彼を思い、父王はレックスに旅に出るよう命じた。
「世界樹の苗木を似合う土壌を探し植えよ」
勇者レックスの旅が始まる。
手を振る母に笑顔で応え、グランバニアを後にするレックス。
「植えろっていわれってもなあ」
傍らに連れ添う妹のタバサ。諌めてもついて行くといって聞かない。
「お兄ちゃん方向音痴なんだもん、ルーラやリレミト使える私が居たほうが安心でしょ?」
悠々一人旅を望んでいたがどうもそうはいかないらしい。
苦手な物が多いタバサに合わせるのは一苦労。先が思いやられる。
ため息一つ吐き、チゾットの山へ向かう。
グランバニアを出るには二つのルートがある。
海を越えるか山を越えるかだ、今回は山を越えるルートを使うことにした。
山を越えるルートにしたのはちょっとした悪戯心からだ。
タバサの苦手なものの一つ高所。妹はルーラを使える、いつでもグランバニアへ戻れる。
妹に危険な目にはあわせたくない心配りでも合った。
「お兄ちゃん、ルーラ使おうよ。わざわざ山を登る必要ないよ」
「今回の旅は今までいったところが無いところを探す旅なんだ。はなからルーラ使ってたら意味が無いだろ?」
揚々と山を上り始めるレックス。タバサは恐々あとを追っていく。
タバサはなかなか根をあげなかった。グランバニアを一望できる頂まで上りきった。
いつ着てもここからの眺めは美しい。
「うぁぁ高い!高いよぉ!お兄ちゃん手を繋いでて・・・」
タバサにはこの眺めに酔いしれる余裕は無い。
「よくがんばったな」
レックスは優しくタバサの手を取った。
チゾットにて、レックスは世界樹の苗木が植えれそうな土壌を探す。
どれも芳しくない。土壌が合えば苗木は巨木となるらしいのだが何の変化も無い。
チゾットではないらしい。他の場所探す。
「チゾットでダメなら他には・・・」
「ねえ?ルーラ使おうよ?どこにいく?決まったら肩に手を乗せてね」
必要以上にせかすタバサ、町とはいえ高いところではどうも落ち着かないらしい。
チゾットを越えればネッドの宿屋だがすぐに海に突き当たる。
港も無いのでここはルーラに頼るしかなさそうだ。
レックスはタバサの肩に手を乗せた。タバサはすぐさまルーラを唱えた。
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「ねえ、お兄ちゃん」
タバサ訝しげにレックスを見つめる。
「オラクルベリーに何の用があるの?」
つい唱える瞬間にオラクルベリーが浮かんだ。
「う〜ん、何かあるかと思って」
「うそつき!遊びたいだけでしょ、まったく」
あきれた表情のタバサ。レックスは笑ってごまかしオラクルベリーの町を遊覧する。
煌びやかな町に魅了されたのかタバサも次第に笑顔を見せるようになる。
腕を絡めて歩く様は他からどう移っているのだろう。少し気恥ずかしい。
グランバニアには同じ年恰好のものが居ない。だからということもあって今まではなんということも無かった。
でもこうして他の町へ出てみて思う。ちょっと距離を置かないと。
「なあタバサ。」
「なあに?お兄ちゃん」
「おまえその・・・もう少し離れないか?」
「どうして?お兄ちゃん」
「どうしてって。俺達みたいな年の二人がこうしてると変な目でみられたりとか」
「いいじゃない、お兄ちゃんはタバサが嫌なの?」
「嫌とかそういうんじゃなくて・・・」
「私は嫌じゃないよ。こうやっておにいちゃんと歩くの大好き。楽しいもん」
さらにキュっとしがみ付くタバサ。レックスは何かゾクッとした。
タバサにわかってもらえる時はまだまだきそうに無い。
そんな二人に黒い影が忍び寄った。
「おやおや仲がよろしいところ恐縮ですが。」
ふらりとフードをかぶった男が道を塞いだ。
「あなたが持っているものを渡していただきましょう」
長く鋭い爪の手が差し出せと示す。
「何のことだ!おまえ何者だ!?」
「名乗るほどのものではありませんただあなたが持っている世界樹の苗木がほしいだけですよ」
男の手がよこせと手招きする。
「断るといえば?」
レックスは剣の塚に手をかけた。
「こうするまでです!」
男はマホトーンを唱えた。二人の呪文が封じられる。
「呪文が封じられたって!」
レックスは天空の剣をすばやく振り抜き斬りかかった。
フードの男はまるで幻のようにすり抜ける。
「ほっほっほ、私の衣はあなたの剣では切り裂くことは出来ません」
男はレックスをかわし、タバサの背後に回った。
「この鎌が何の鎌かご存知ですか?そう死神の鎌です。」
男はタバサの首に鎌をあてがう。
「お嬢さん、動いてはいけませんよ。動くとお兄様には二度と会えなくなってしまいます。」
爪でタバサの頬を撫でる男。レックスは身動きが取れない。
「簡単にてにいれてはおもしろくありませんね、少し踊っていただきましょう」
男はイオナズンを唱えた。
呪文が使えず、天空の剣で斬りつけても利かない。
タバサを人質に取られている。状態は最悪だった。
「今のイオナズンはどうですか?私なりの心遣いです。オラクルベリーの町に被害が及ばぬように、ね」
剣を杖代わりに立ち上がるレックス。倒れるわけにはいかなかった。
「苦しいですか?苦しいでしょうねえ。とても愉快です」
男は高笑いする。続けてまたイオナズンを唱えた。
「いやぁあやめて!お兄ちゃんが死んじゃう!」
タバサが泣き叫ぶ。男はさらに勝ち誇る。
「伝説の勇者もおそるるに足らず、ですね。それでは世界樹の苗木を頂くといたしましょう」
男はレックスの袋から世界樹の苗木を奪い取った。
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「これが世界樹の苗木・・・」
苗木をやららかに手に取る。
「ではあなた方は用済みです。」
男は手のひらに魔力を帯びさせる。
「勇者レックス、永遠に眠りなさい。」
「お兄ちゃんだめえ!」
タバサが必死にレックスに向かって叫ぶ。
するとタバサの体を白い光が覆った。
「なんですか!?これは!?」
白い光は男に襲いかかる。白い光が鎌を持つ腕に絡みつく。
男は苦しみもがきタバサから離れた。
レックスは渾身の力を込めて天空の剣を投げつけた。
剣は男の体を貫いた。
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「く、くぅ、この私に手傷を負わせるとは大したものです。」
男は剣が刺さったままなおも立つ。少しよろめいただけだ。
「恐るべきはこのお嬢さん、不思議な力をお持ちのようです。」
男はタバサを睨み付けた。
「お嬢さんも預からせていただきますよ。」
男はタバサに念力を送ったタバサは気を失った。
タバサを抱え宙を舞う男。
「タバサをどうする気だ!?タバサを返せ!」
レックスは今に倒れそうな体を引きずり立ち向かう。
「さてどうしましょうかねえ、なんにせよあなたと一緒に居させるわけにはいきません。」
男はやけつく息を吐き出しレックスに浴びせた。
「さようなら伝説の勇者。またどこか出会いましょう。」
男は邪悪な光を呼び出しその中に消えていく。
レックスは唇を噛み見ることしかできぬふがいない自分を呪った。
気がついたのはオラクルベリーの宿屋。
男に食らわされた痛みがまだ体の隅々に染み渡っている。
それよりも打ちのめされタバサを奪われた痛みのほうがその何倍も応えた。
「よう、気がついたか?勇者。」
目の前に立つ者、それはラインハットの公子コリンズだった。
「驚いたぜ、久しぶりに会ったと思ったらボロボロなんだからよ」
果実を頬張りながらレックスを見つめる。どうやらコリンズに助けられたようだ。
「誰にやられたか知らんが運が良かったな、俺様が城を抜け出してオラクルベリーに行く日課があって」
「まあしっかり体を労わってやれよ。なにかするならそれからだ」
コリンズはそっと薬草を差し出した。
「お久しゅうざいます殿下、ピピンにございます」
ピピンは跪きレックスに一礼する。コリンズに触れないのは彼が無粋なためかあざとさゆえか。
「久しいな、ピピン。元気そうで何よりだ、修行はうまく言っているか?」
「は!まだまだ未熟ゆえ精進するばかりにございます。」
とても遊び呆けているとは言えない。実際武芸の稽古も怠っているわけでもない。旅の概要は伏せた。
「しかし一体これはどういうことでしょうか?殿下ほどの方がこのように・・・・・・。」
「持ち上げなくてもいいピピン。僕は弱者だ、タバサを、世界樹の苗木も守ることが出来なかった。」
レックスの重く苦々しい表情にピピンは気の利いたジョークさえ押し殺す。
まだ話しさえ聞いていないが再び王家のために槍を振るう事になるだろうと悟った。
「平和が訪れても勇者は勇者ということですか・・・、私としたことが抜かりました。」
身中に突き刺さる天空の剣を抜き取り大きく息を吐き出す男。
大きな風穴が見る見る塞がっていく。男は天空の剣を投げ捨てた。
「この剣は本当に忌々しいですね、時を見て葬ってしまわなければ・・・・・・」
薄っすら輝く剣を男は憎く踏みつけた。
「それより恐ろしいのはこのお嬢さん・・・」
床に伏せ気を失うタバサに鋭い眼光を浴びせる。
「ローブの魔力を破り天空の剣を導くとは・・・もはや大聖母マーサを越える力をお持ちのようだ。」
「真に目覚める前にこうして虜に出来て幸いでした。」
男はタバサの顎を掴みいやらしく笑みを浮かべた。
「わが魔導の妖しにかけ、邪神の妃になっていただきましょう。その魔力、存分に使わせていただきますよ。朽ちるまでね」
「ほっほっほっほ!」
男の高笑いが薄暗い一室に反響する。
どことも知れないこの世の果てとも思える場所で悪意に満ちた炎が世界を焼きつくさんと燃え盛る。
タバサは悪夢に魘され一言呟く。
「お兄ちゃん・・・・・・」
その声は意中の者に届くことも無くかき消された。
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タバサを失った勇者レックス。生まれた時から離れることなど無かった。
胸が抉られたかのように痛む。
タバサ、どこにいるんだ・・・。
天空の剣さえも失った、向ける刃さえない勇者。
レックスは縋る思いでテルパドールへ向かった。
広く見渡す目を持つ砂漠の女王アイシスに接見を願う。
「レックス様、しばらく会わないうちに大きくなられましたね。」
微笑が眩しく美しい。だがレックスの心を癒すには至らなかった。
アイシスは心を読む力を持つ。レックスの心に触れ、彼を優しく抱きしめた。
「自分を責めるのではありません。あなたが悪いわけではないのです。たとえあなたが勇者だとしても敵わぬものもありましょう・・・」
「僕がもっと強ければ苗木を・・・、タバサを失うことは無かった!」
レックスは涙に包まれた。水泡が弾け飛ぶかのように・・・・・・。
「あなたは勇者。そしてタバサさまの兄上なのです。さあ涙を拭いて・・・」
レックスは負の激情から醒め、真っ直ぐな目でアイシスに向き合った。
覆う暗雲が去り、碧空が姿を現す。反撃の狼煙を上げるために・・・
「天空の武具は主を得ると一度離れたとしても必ず主をその元に導くと聞いたことがあります」
「天空の兜を地図の上に差し出しなさい、あなたを行くべき場所へ誘ってくれることでしょう」
レックスは兜を地図の植えに差し出す。すると淡緑の光が兜の宝玉から差し込み行くべき道を指し示した。
示す先は北の海、陸地の無いはずの海原を指し示した。
「道は開けました。さあ行きなさい。そしてタバサ様を・・・・・・」
「これを持っていてください」
アイシスは一振りの剣を差し出した。
「この剣は稲妻の剣といいます。この城の奥深くに眠っていたそうです。稲妻を呼び敵をなぎ払う力があります。」
「天空の剣には劣るかもしれませんがきっとあなたのお役に立てることでしょう。」
「ありがとう、頂いておきます。」
レックスは稲妻の剣を受け取り、駆け出した。
雲のように軟らかいベット。大理石で出来たシャワールーム。
煌びやかなキャンドルが辺りを灯し、真っ赤な絨毯が敷き詰められている。
されど窓は無く、一つしかない出入り口は鉄格子で硬く閉ざされ、その先には3匹のグレイトドラゴンが見張る。
囚われのタバサ、拷問や酷い仕打ちは一切無い。しかし兄から切り離されたことが一番の拷問といえよう。
兄レックスはタバサにとって理想の異性であり兄弟以上の存在だった。
伝説の勇者と慕われるレックスが一番心を通わせているのは自分であると自負していた。
時々挫ける弱さ、年齢相応な無邪気さ、いざという時の逞しさ。
惹かれていた、髪が伸びて日増しに大人びていくとともにその思いは準じて強くなる。
「お兄ちゃん・・・どこなの・・・?」
タバサはただ兄を恋焦がれた。
カチカチと機械音が聞こえる。キラーマシーンがやってきた。
このキラーマシーンはタバサに食事を運ぶ役割を与えられたローブの男の隷僕。
ただ与えられた仕事をこなす。そんな機械にも優しく接するタバサ。
ローブの男は憎い、ここから出たい気持ちも強いがこの魔物たちを憎む気持ち人はなれなかった。
キラーマシーンが少し照れたようなそぶりを見せた。まさかこの機械に感情があるなどとそのときタバサは思いもよらなかった。
魔法の絨毯が飛ぶ。北の海原を目指し、勇者を乗せて。
戦い向けて槍を疼かせるピピン、初めてとなろう魔物との戦闘に少しうろたえるコリンズ。
麗しき姫君救わんとする少数の精鋭。
次々と山をかわし、川の抜け、海を走る、日が沈み、夜が来ようとも歩みはとまらなかった。
「殿下、一度お休みになられてはどうです?でなければ姫に会う前に力尽きてしまいますぞ」
「ピピン、こうしている間にもタバサはどんな仕打ちを受けているかわからない。」
「僕はそんな時に休むなんてできないよ」
稲妻の剣を握り締め溢れんばかりの闘志を燃やすレックス。
「しかし魔物かぁ、もうお目にかかることなんてないと思ってたんだけどなぁ」
対照的に冷静なコリンズ。薄情というわけではない。秘めた感情を押し殺しその知性を生かす。
敵に対する手がかりはあまりに少ない。勇者さえ退けた強大な力、何のために世界中の苗木を持ち去ったのか。
脳裏に様々な仮説が生まれでては消える。真実に辿る道筋は魔法の絨毯が行く道よりも困難のようだ。
羽音が3人の鼓膜を揺らす。海鳥の羽音だろうか?
羽音は数を増していく。レックスは空を見上げた。
見上げ先にある羽音の主はガーゴイルの群れ。
「みんな!!」
一同はいっせいに身構えた。
「お嬢さん、その部屋はお気に召しましたかな?」
ローブの男はタバサに笑みを送った。
「気に入るわけ無いじゃない!ここから出しなさい!」
タバサは鉄格子を掴み、男に訴える。
「きゃあ!」
鉄格子には簡単にこじ開けられぬよう魔力が込められていた。
「大人しくしていなさい、火傷してしまいますよ。」
「私を閉じ込めてどうするの?」
「怖いですか?」
男は笑った。
「本来あなた方には消えていただくつもりでしたが・・・」
「あなたには利用価値があるようですので」
寒気がした。何をさせられるのか。兄の顔が浮かび涙がこぼれた。
「おやおや泣き出してしまいましたか。いけませんねぇ、これからあなたは花嫁になるというのに」
「あなたは邪神の妻となり、その身を捧げて頂きます。」
「幸福に思うのですねえ、この世を統べる神の子を身に宿せるのですから」
タバサは絶望の沼に爪先が浸かったことを知った。もはや沈みは止められぬものなのか?
「次に私があなたの前に現れた時が婚礼の時です。それまでそうして大人しくしていなさい」
男はふわりと消え去った。
蒼い稲妻の斬撃、デーモンスピアの五月雨。炎の旋風。
北の海原を三つの嵐が乱れかう。
ガーゴイルの群れは木の葉のように舞い、骸と化す。
「いつまで涌いてきやがるんだ!?マドハンド見てえによ。キリがねえ!!」
コリンズは激昂し今日何発目になるかわからないべギラマを放った。
「たまにはこれぐらい女性に飛びかかって来ていただきたいものですな」
ピピンの槍もだいぶ魔物の血を吸った。
手にしたばかりの稲妻の剣、馴染む時間は十分だった。レックスは間髪入れず魔物を切り捨てる。
圧勝は確実であった。しかし、消耗も確実。
「コリンズ王子、力をかしてくれないか?」
レックスは左手を差し出す。コリンズはニヤリと笑い、手を取った。
「ミナデイン!!!」
海上に眩い光の柱が立ち上がり、ガーゴイルたちを飲み込んでいく。
「ひゃ〜、飛ばすねえ!これがミナデインか」
「さあ、これでしばらくはガーゴイルも向かって来れない。先を急ごう!」
魔法の絨毯は歩みを速める。その先には巨大な箱舟が宙に浮かび待ち構える。
一行は箱舟に雪崩れ込んでいった。
キラーマシーンはおどけてみせる。クルっと回転して見せたり、足をバタつかせたり・・・・・・。
三匹のシーザードラゴンは舌を出してみたり尻尾を振って見せたりして気を引こうとする。
見張りを任された魔物達はタバサに心を許していた。
モンスターの心を開く聖なる力、タバサにはその力が備わっていた。
一体と三匹は泣き崩れるタバサの笑顔欲しさに永遠戯れをみせた。
食事の時間になる。キラーマシーンはタバサに食事を運ぶ。
タバサは受け取ろうとしない。首を横に振り塞ぎこんだままだ。
何かとても残念そうに見えた。感情も表情も無い機械であるはずが。
キラーマシーンはキョトンと停止し、カチカチと何か演算を始める。
そして再びタバサに歩み寄る。
ゆっくりゆっくりとその機械仕掛けの腕を伸ばした。
一輪の花。鉄格子の隙間からクイクイと差し出す。
思わずタバサは笑みを零した。キラーマシーンの一つ目が細く光った
「ありがとう」
花を受け取る。
「この鉄格子が無かったらあなたの頭を撫でれるのにね」
タバサはキラーマシーンに語りかける。
「私、お兄ちゃんに会いたいの。離れたくない」
「離れてるのってつらい・・・ずっと一緒だったもん」
「悪い神様のお嫁さんなんかなりたくない」
「わからないよね・・・ごめん」
また瞳に涙が溢れ出た。
キラーマシーンはクルっと振り返り、グレイトドラゴンに何か合図を送る。
シーザードラゴンは苦々しく頷く。
キラーマシーン勢いよくは腕を振り降ろした。
「敵さんは相当な魔術師だな・・・」
箱舟の内部に侵入した折、コリンズはその壮大さに驚愕した。
一城に質量頑丈な作り。されど内部は外周に比べてまったく魔物の気配は無い。
そのおかげで深く進むことが出来たのだが何か無用心すぎた。
「いいか、レックス。まず姫さんを助ける事を最優先するんだぜ?」
「この船沈めるにゃあ俺達だけでは手に余る、中探って姫さん助け出してドロン、だ」
コリンズは親指を突き出しウィンクして見せた。レックスもそのサインを返す。
「待っていろ!タバサ!必ず助け出す」
レックスは少し足を速めた。
箱舟の心臓部にあたる場所だろうか。ローブの男は佇む。
右には赤い砂。左には水、どうやら海水らしい。
それらは空中で混ざり合い、泥人形となる。ここには何体もの泥人形が混在していた。
「生命の宿木、膨大な魂の坩堝。この力をこの人形達に・・・」
ローブの男は苗木を一つの泥人形に植え込んだ。
苗木は見る見る根を下ろし泥人形を包み込む。
伸び始めた根や蔓は他の泥人形にも絡みつき、また他の泥人形に絡みつく。
ローブの男は泥の塊の前に立ち、何か撒き始めた。
「大魔王様の遺灰、大魔導の躯。混ざり合い新たな生命として・・・・・・」
大きくて腕を広げたローブの男。
「まもなくです!ほっほっほっほ」
泥人形が一つだけ激しく変態する。まるで生命のルーツを辿るかのように。
「・・・何かあったようですね、お楽しみは後にとっておいて様子を見てくるといたしましょう」
男はいつものようにふわりと姿を消した。