272氏のSS

 私達のお父さんは、グランバニアの国の王様です。

 今はお母さんを助け出す旅の途中だけれど、王様としてのお仕事もちゃんとしているの。

 今日はラインハットに立ち寄って、親友のヘンリーおじさまと大切なお話があるんだって。

 私とお兄ちゃんは、コリンズ君のお部屋で一緒に遊ぶことになりました。

 けど…。

「なんだよ!レックスの馬鹿!」

「い、いきなりどうしたの?コリンズ君・・・?」

「うるさい!二人とも出て行けよ!」

 急にコリンズ君が怒り出したの。

 私、コリンズ君ってなんだか苦手です。

「変なの…。行こ?タバサ」

「う、うん…」

 私はお兄ちゃんに手を引かれて、コリンズ君の部屋を後にしました。

 部屋を出るとき、ちらりと見えたコリンズ君の顔は、なんだかとても寂しそうでした。

「あ、お父さん。それにヘンリーおじさん!」

 部屋を出てすぐの角を曲がると、お父さんとヘンリーおじ様の姿が見えました。

「良い子にしてたかい?二人とも。…あれ?コリンズ君はどうしたんだい…?」

「知らないよ…。急に怒り出して、でてけー!だってさ。変なコリンズ君…」

「あぁん?ったくしょうがねぇなあの悪ガキは…。ごめんな?二人とも…」

「い、いえ!そんな…。私たちが、何かコリンズを怒らせること言ったのかも知れないし…」

 とは言っても、本当はぜんぜん解らないの。

 普通におしゃべりしてたら、急にコリンズ君が怒り出して…。

 本当に、どうしちゃったのかな?

「いいや、ここは父親らしくビシィ!っと叱ってやらないとな、ビシィっと!」

「まぁまぁヘンリー…。とりあえず、コリンズ君の話も聞いてみようじゃないか?」

「おぅ。ビシィ!っと聞いてビシィ!っと叱ってやる!」

 なんだかやる気いっぱいのヘンリーおじ様と一緒に、再びコリンズ君の部屋に向かいました。


「こるぁコリンズ!!!…ってあら?」


 部屋のドアを開けると、中にコリンズ君の姿はありませんでした。

「あれぇ…?どこ行っちゃったんだろ、コリンズ君…」

 きょろきょろと部屋を見回すお兄ちゃん。

 でも、どこにもコリンズ君の姿はありません。

「蛙の子は蛙、だな。ヘンリー?」

 お父さんは悪戯っぽくクスクスと笑っています。

「あぁまったくだ。自分の子だって確信できて安心するよ?」

 わははと笑うヘンリーおじ様。いったい二人とも、なにがそんなにおかしいのかな?

「ねぇねぇお父さん。コリンズ君がどこに行っちゃったか解るの?」

「あぁ、解るよ」

「え!?でも、この部屋の窓は開かないし、この部屋に出入りする通路は、お父さんと会ったあの道だけだよ?」

「ふっふっふ…。まだまだ青いな、レックス君?お前のお父さんは、お前より小さな時にこの謎を解いたんだぞ?」

「え、えぅ〜…?」

 困惑するお兄ちゃんを尻目に、ヘンリーおじ様がコリンズ君の部屋の机に近づいて行きます。

「その謎の秘密とはぁ…?ジャカジャーン!」

「あ!」

 軽快な掛け声と共に、おじ様がコリンズ君が座ってた椅子を持ち上げました。

 すると、椅子の下に隠れていた階段が顔を出しました。

「ふっふっふ…。見たか!これぞラインハット王家に代々伝わりし、隠し階段の術!!!」

「すごいすごーい!」

 お兄ちゃんはなんだか大喜びです。

 男の子って、こういうのが好きなのかな?

「さ。遊んでないで、コリンズ君に会いに行こう」

「…アルス。お前って時々すげぇ淡白だよな。もっとこうノリってもんをだなぁ…」

 楽しそうに話ながら、階段を降りていくお父さんとおじ様。

 私とお兄ちゃんも、二人の後ろについて行きました。

 階段を降りると、ほの暗い通路に降りました。

 辺りを見回すと、すぐにコリンズ君を見つけることができました。

 コリンズ君は手にチョークを持って、一人で壁にラクガキをしていました。

「…コリンズ」

 ヘンリーおじ様が声をかけると、コリンズ君は肩をびくっとさせて、恐る恐るこちらを振り向きました。

「なんで二人を追い出したりしたんだ?仲良くしなきゃ駄目じゃないか」

 コリンズ君は、顔をうつむかせたまま、なにも答えません。

「黙ってちゃ解らないだろ?コリンズ」

 ヘンリーおじ様の口調は、次第に強くなって、なんだかとても怖くなっていきます。

「…あ、あのね、コリンズ君。私たち、なにかコリンズ君を怒らせるようなこと言ったのかな?だったら、あの、ごめんなさい…」

 私が聞いても、コリンズ君は答えてくれません。

「いいかげんにしろ!コリンズ!!」

 しびれを切らしたヘンリーおじ様が、ついに怒鳴りました。

 コリンズ君はびくりと身を震わせ、今にも泣き出しそうな顔をしています。

 そんなヘンリーおじ様を、お父さんがなだめています。

「なんで…」

 ぼそりと。震えた声でコリンズ君がつぶやきました。

「なんで、俺ばっかり怒られるんだよ…?なんで俺には、兄弟がいないんだよ…?」

 今にも泣き出しそうな声で、ふるふると肩を震わせながらしゃべるコリンズ君。

 そのときやっと、私達はコリンズ君が怒っている理由が解りました。

「コ、コリンズ…?」

「父上の馬鹿!アホ!三流駄馬っ!!!」

 渾身の叫びを上げると、コリンズ君は中庭のほうへ向かって全力で走り出しました。

「タバサ、行こう」

「うんっ」

 私とお兄ちゃんは頷き合い、すぐにコリンズ君の後を追いかけました。

 …ヘンリーおじ様は、どうやら痛恨の一撃を受けてしまったようです。

「さ、三流駄馬て…。息子に、三流駄馬て…」

 立ち直れないんじゃないかと思うほど落ち込むおじ様を、お父さんが必死で慰めていました…。

「コリンズくーん!」

 すぐにコリンズ君に追いつくことができました。

 コリンズ君は、中庭のお花畑に座り込んでいました。

「あ、あの。コリンズ君。その、僕たちね?うまく言えないけど、その…」

「…いいんだ。解ってる。俺様こそ、ごめんな。レックス、タバサ…」

 それは、今まで見たことないくらい素直なコリンズ君でした。

「俺、うらやましかったんだ。お前達兄妹が。ずっと一緒にいて、いっつも仲良しで、嬉しいことも悲しいことも、全部共有して。

 なのに俺には、そういう相手がいない…。国の子供たちも、俺のことは『王子』としてしか見てくれない…。

 だから、うらやましかったんだ…」

「コリンズ君…」

 ずっと、寂しかったんだね。

 グランバニアには、私達と同じ年頃の子供はいなかった。

 私も、もしお兄ちゃんと双子じゃなかったら、どんなに寂しかったろうって、いつも思ってた。

 コリンズ君は、『友達』はたくさんいるけど、『特別』が誰も居ないんだ。

 私にとっての、お兄ちゃんのような存在が…。

「はは…。馬鹿だよな…。

 自分で、ただのわがままだって解ってるのに。一人でわめいて、父上を怒らせて…」

 溜め込んでいた感情が、涙に変わってコリンズ君の頬を滴り落ちました…。

「ごめ、なさい…。ごめんなさい、父上…」

 嗚咽をこぼしながら、自分の言った言葉に後悔の念をこぼし続けるコリンズ君。

 私とお兄ちゃんは、そんなコリンズ君の髪を、そっと撫でてあげるくらいしかできませんでした。

 どのくらいそうしていたのか。

 ふと、お空を見上げると、空ははオレンジ色に変わり、太陽は西の空に沈みかけていました。

 視線を戻すと、ふっと二人の人影が刺さりました。

 後ろを振り向くと、お父さんとヘンリーおじ様が立っていました。

「おいで、二人とも」

 お父さんに手招きされ、私とお兄ちゃんはお父さんの傍へ駆け寄りました。

 コリンズ君は、うつむいたまま振り向きません。

 そんなコリンズ君を、ヘンリーおじさまは優しく抱き上げました。

「…ごめんな、コリンズ。俺、お前のそういう気持ち、ぜんぜん気づいてやれなかった…。

 駄目な親父だよな、ほんと…」

 その言葉を聞いたコリンズ君は、ぶんぶんと首をふって否定しました。

「違う…。全部、ただの俺のわがままで…。

 ごめんなさい、ごめんなさい父上…!」

「でも、これからはもう、そんな寂しい思いはさせないぞっ」

「…え?」

 なんのことか解らず、コリンズ君は涙目をきょとんさせました。

「俺も今日、知らせを聞いたばかりでな。あー、こほんっ。

 …コリンズ、お前も、もうすぐお兄ちゃんだ!」

「…へ?」

 私とお兄ちゃんも、その言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかりました。

 コリンズ君のほうは、まるで理解できていない様子です。

「つまり、だ。

 もうすぐ、お前の弟か妹が生まれるんだよ!コリンズ!」

 一瞬の静寂が、中庭全体を包み込みました。

 そして静寂は、コリンズ君の歓喜の叫びに破られ、

 花の香り、風の歌、水の音色が、新たな命を祝福する詩を奏でました…。

 その日はラインハットのお城で一泊し、

 次の日の朝、出発することになりました。

 ヘンリーおじ様や、マリアさんやコリンズ君、デール王様にお城の兵士さん達、沢山の人が私達を見送ってくれました。

「じゃあな、アルス。はやく、フローラさんが見つかるといいな」

「ああ、ありがとうヘンリー。マリアさん、くれぐれも、お体を大切に」

「はい、ありがとうございます、アルス様…」

 もうすぐ、サンチョおじさんが馬車で迎えにきてくれる時間です。

 サンチョおじさんは、自分が居ると感情を抑えられないからって、別行動をしています。

 はやくわだかまりが解けて、みんなが仲良くできる日が来ればいいなって思いました。

「じゃあね、コリンズくん!」

「ああ。今度お前達が来るときは、俺様もお兄ちゃんだからな!優しく出迎えてやるよ」

「あはは、なんだよそれ。うん、でも、またコリンズ君の弟か妹、みせてね!」

「ああ、絶対見にこいよ!…そうだ、約束の証として、子分のしるしをお前らにもやるよ」

 コリンズ君はポケットをごそごそと探ると、小さなメダルを二枚、私達に差し出しました。

「わぁ、ありがとうコリンズ君!」 

「…さて、そろそろ時間だ。行こうか、レックス、タバサ」

「はい、お父さん!」 

 私達は、歩き始めました。

 沢山の人々の思いを受けながら。

 お母さんを助け出すため。お婆ちゃんを救い出すため。そして、世界の平和を取り戻すため。

 いつか生まれてくるコリンズ君の兄弟が、平和に暮らせる世界を手に入れるため。

 私達の旅は、続いていきます…。

「ねぇお父さん。このメダル、メダル王様に届けないで、持っていていいかな?」

「あぁ、もちろんだよ。僕が貰えなかった、子分のしるしだからね…」


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