夢を見たの。
とてもとても怖い夢。
どこまでも続く、暗い暗い闇の中から、不気味な笑い声が聞えるの。
笑い声はだんだんと近づいてきて、
私は怖くなって逃げ出すの。
でも、逃げても逃げても、声はどんどん近づいてくるの。
そして、笑い声の主が、私の耳元でこう呟くの。
「どうして逃げるのですか?私は貴女の父親ですよ…?」
お父さん…?
私は逃げるのをやめて、ゆっくりと後ろを振り返りました。
そこには、見たことの無い男の人が立っていました。
私は、お父さんの顔を知りません。
だから、今目の前に立っている男の人が誰なのか、私には解りませんでした。
「お父さん、ですか…?」
恐る恐る訊ねると、男の人はとても不気味な笑みを浮かべ、
私に手をさし伸ばします。
「そう、貴女を迎えに来たのですよ。
さぁ、一緒にいらっしゃい。
貴女のお母様も、お婆様も、貴女のことをお待ちですよ…?」
本当に、お父さん…?
この人について行けば、お母さんにも会えるの…?
私は、差し出された手を恐る恐る握ろうとしました。
けれど、指先が触れた瞬間、禍々しい邪念が流れ込んでくるのが解りました。
…違う、この人はお父さんなんかじゃない。
掴みかけた手を振り払い、また振り返って逃げ出そうとしました。
その瞬間、首筋になにかひやりと冷たいモノが当てられました。
鋭く研ぎ澄まされた鎌が、私の咽喉元を捕らえていました。
「ほっほっほ…。勘の良い子供は嫌いですよ…?」
身動きが、とれません。
嫌…、怖い…、助けて…、
お兄ちゃん…!
「タバサっ!!!どうしたのタバサっ!?」
目を開けるとそこは、グランバニアの私達のお部屋でした。
酷く気持ち悪い感触。
冷や汗で、身に着けていたパジャマはぐっしょりと濡れていました。
「大丈夫タバサ…?ずいぶんうなされてたよ…?」
私の頬に手をあてがいながら、心配そうに顔を覗き込むお兄ちゃん。
安堵と同時に寂しさが溢れ返り、瞳に映るお兄ちゃんの姿が、
みるみるうちに涙で歪んでいきました。
「会いたい、よ…。お父さん…、お母さん…。…ふっ、ぇえ…」
ぽろぽろと泣き崩れる私のおでこに、お兄ちゃんが優しくキスをしてくれました。
そのまま私を抱き寄せて、そっと髪を撫でてくれました。
「大丈夫だよタバサ?僕はずっと、タバサの傍にいるから…」
耳元でささやくお兄ちゃんの声が、
さっきの夢の恐怖をゆっくりと取り除いてくれます。
今はもう少しだけ、このまま甘えさせて…。
グランバニアの夜は、ゆっくりと更けていきました…。