夜も更け、お城の皆が寝静まる頃。
ふと目が覚めた私は、隣の部屋の明かりに気づきました。
隣で眠っているお兄ちゃんとお母さんを起こさないよう気をつけながら、ベッドを抜け出し、そぉっと隣の部屋を覗いてみました。
「…ん。どうしたんだい、タバサ?」
部屋の中にいたお父さんが私に気づき、にっこりと微笑みました。
机の上には、難しそうな本や、なにかの資料のようなモノが山のように積まれています。
「お父さん、こんな夜遅くまでお仕事…?」
時計の針は、夜の一時を回っていました。
「う〜ん…。仕事、というよりは、お勉強かな?」
「なんの、お勉強…?」
私は机の上に詰まれた本のひとつを手に取り、パラパラとめくってみました。
「え、えぇと…。闇の…しょう族…?きょうに空より生まれ…ち、神のあお、子供たち…???」
難しい字がいっぱいで、よくわかりません…。
「…大地の民、闇の眷族(ケンゾク)、共に空より生まれ堕ちたる、神の龍の子供達。
つまり、魔物も人間も元々、マスタードラゴンの子供達だった、って意味だよ」
「え、え。魔物さんたちは、プサンさんの子供なの…?
でもでも、私もお兄ちゃんも、お父さんとお母さんの子供なの…」
「ふふ。そういう説もある、という書物だよ。
本当のところは、マスタードラゴンに聞いてみるといいかもね?」
悪戯っぽく笑みを向けるお父さん。
「う、う〜ん…。よくわからないの…」
「…お父さんはね、人間も魔物も、みんなが笑顔でいられる世界にしたいんだ。母さん…、タバサのお婆ちゃんが愛した魔界の魔物達とも、みんなで手を取り合っていける世界を、ね…」
「マーサお祖母さま…」
「だから、そのためのお勉強さ」
「…うん。お父さんなら、きっとみんなを笑顔にできると思うの」
「ふふ、ありがと」
そう言うと、お父さんは立ち上がり、備え付けのティーポットで紅茶を淹れ始めました。
カモミールの香りが部屋に立ち込めます。
「飲むかい?」
私はこっくりと頷きました。
「あのね、お父さん…?」
お父さんの淹れてくれた温かい紅茶をすすりながら、お父さんに話しかけました。
「うん…?」
お父さんは読んでいた本から視線を外し、私の方に目を向けました。
「最近ね、変なの…」
「何が…?」
「ギコギコ…」
「…あぁ」
ギコギコの名前を聞いたとたん、お父さんの顔から笑みが消え、
お父さんの視線は再び本へと戻っていきました。
「なんだか元気がないし、この前なんて、バルコニーの上でずぅっとお空を見上げてたの。
お兄ちゃんが遊ぼうって言っても、なんだか上の空だし…。
もしかしてギコギコ、病気になっちゃったのかな…?」
お父さんは一口紅茶をすすった後、本に視線を向けたまま、ゆっくりと口を開きました。
「…タバサ。たぶん、ギコギコは…」
そこまで口にすると、お父さんはため息をひとつして、
パタンっと本を閉じました。
「…?」
「…もう寝なさい、タバサ。
あまり夜更かししていると、体を壊してしまうよ」
「ぁ…。はいなの…。
でも、お父さんは…?」
「僕はもう少ししてから行くよ。
おやすみ、タバサ…」
お父さんはそっと、私のおでこにおやすみのキスをしてくれました。
「ん…。おやすみなさい…♪」
ティーカップを机に置き、私は部屋を後にしました。
部屋を出るとき見えたお父さんの表情は、なんだかとても、哀しそうでした。
その時私には、何故お父さんがあんな哀しい顔をするのか、解りませんでした…。