赤穂浪士氏のSS…1

「はぁ…ここにいたら僕いつまでたっても体が休まらないよ…あぁ、さむぅ〜」

宿屋の窓から月の光に照らし出された古城が見える。

テンは溜め息を吐きながらテーブルの上にあるホットミルクを口にした。

昼間は炎天下、夜は氷点下まで冷え込むこの土地の気候は日頃から慣れていないと相当にキツい。

ましてや子供の体には相当な負担がかかるはずだ。

「なんか今日はソラもぶすくれて何も話してくれないし…はぁ〜あ…」

今日の昼、デルパドール城を訪れた時の城の台所にいた女の子とのやりとり以来、ソラはずっと不機嫌なのだ。

顔を合わせようとしないし、話しかけてもそっぽを向いてしまう。

オマケに夕食の時にソラの大嫌いなニンジンが出てきただけで大騒ぎしたのだ。

そして怒った両親に怒鳴られ、一人部屋にふてくされて戻っていってしまった。

(ソラ…どうしちゃったんだろ?)

さすがに妹が幼心にも心配のか、テンはなかなか寝付けづに部屋のベットで寝ころんでいたところだった。

「いつもならシーツの中にもぐってくるんだけど…」

普段隣に聞こえる寝息もせず、テンは少し寂しい気もしていた。

夜更かしが苦手で、暗いのが怖いためにランプはいつも一つつけてないと泣き出してしまう…

今夜はそんな臆病なソラが隣にいない。

「あぁ〜あ…寒いし、気晴らしにお風呂にでも入ろうかな〜」

そう言うとテンはベットから跳ね起き、部屋のドアノブを回す。

一瞬、ひんやりした空気が通り抜けていき、テンは少し身震いした。

(たしかお風呂場は…)

天窓からの月明かりに照らされた廊下を抜けると、暖炉のある広間へとたどり着く。

(あ…夜は火がついてるんだ)

広間を抜けようと、ソファを横切ろうとしたときだった。

暖炉の火に照らされた見覚えのある顔―ソラだった。

ちょこんとソファに座り、うつむいたまま何か考えているようだった。

「ソラっ!」

突然の大きな声にビクッと肩を震わせ、テンの方へ顔をやる。

「おにいちゃん…」

「ソラ、こんな時間にどうしたの?夕食のあと全然顔出さないから心配してたんだ…」

「…」

テンがいくら声を掛けてもソラは黙りこくったままだった。

「ソラ…?」

下を向いたままテンの顔を見ようとしない。

テンが顔をのぞき込むと、意地になって顔をそらす。

そしてまた下を向いてしまう。

「ソラっ…僕ソラに悪いことしちゃったかな…?あやまんなきゃ…だめかな…?」

その悲しみのこもった問いかけにソラの目がうるうると潤んでいく。

そして流れる一筋の涙…

「…結婚しちゃ…やだもん…」

「…?」

テンはいきなり涙を流され、何がなんだかわからずにいた。

結婚なんて言われても何もわからなかった。

「ソラ、僕結婚て言われても…」

「結婚しちゃやだぁ!」

テンの問いかけを無視してソラが叫んだ。

「お城の女の子がいってたもん!おにいちゃんと結婚したいって!私もおにいちゃんと結婚したいもん!でもソラはおにいちゃんと結婚できないんだもん…!そんなのや
だ…やだよぉ…」

そこまで言うとソラはふえぇ、と泣きじゃくってソファに突っ伏してしまった。

「ソラ…僕たちは兄弟だから…結婚はできないよ…でも…毎日一緒だから…泣かないで…?」

苦し紛れだった。

自分だってソラのことが好きだし、その『好き』という感情が妹をかわいがるという領域を越えていることだってわかっている。

できればソラとずっと一緒にいたい。

今も、これから大人になっても…

「うぇっ…うぇ…ふえぇ…おにいちゃん…ふぇ〜ん…」

まだソラは泣いていた。

そのか細い身体をさらに小さく丸めて、何度も何度も泣きじゃくりながら『おにいちゃん』と呟いている。

ただその姿が愛おしくて、ソラの気持ちが痛いほど分かって…

気づけばテンはソラを抱きしめていた。

「!…おにいちゃ…んんっ…」

全てを言い終わる前に無理矢理ソラに口付けをする。

「ふっ…ん…ふぁ…」

舌を入れることはなかったが、長いテンのキスは息苦しさからソラの頬を紅潮させていった。

目の前がかすみ、ソラが夢中に兄の唇の温かさに酔っていると、突然唇が離れていく。

名残惜しそうな甘い吐息があたりに響く。

「ふっ…はぁ…おにいちゃぁん…」

テンは唇を離すとまだ涙目のソラをまた抱きしめる。

「ソラ…僕もソラのことが大好きだよ…誰よりも…大好きだよ…」

「ふぇ…ほんと…?」

耳元からソラの少しかすれた声が聞こえる。

「ホントだよ、ソラ…僕たち兄弟だけど…」

手で髪をすくように撫でる。

サラサラと指先から流れる金髪からはほのかによい香りがした。

テンはソラの目を見ながら、恥ずかしそうに言った。

「僕ソラと…ずっと傍にいる…結婚は…ソラとしかしたくない…」

「ぐすっ…おにいちゃん…ふぇ〜ん」

ソラはまた目に涙をためて泣きじゃくった。

突然泣かれて驚いたのはテンのほうだ。

「どうしたの!?まだ悲しいの…?」

テンはしどろもどろしながらソラの頭を撫でている。

「ちがうの…おにいちゃんに好きって言われたら…うれしくて…涙がとまらないの…」

そうだったのか、とテンは胸をなで下ろした。

テンはソラを後ろからそっと抱きしめ、泣きやむのを待っている。

ソラが泣いてしまったら、いつもこうしていた。

ただ、何も言わずにそっと…

「…うん、ソラもう平気だよ…」

いつもの明るい、でもほんの少し切なそうな声。

「そっか、よかった…」

ソラを包み込んでいた腕を戻そうとすると、グイッと引っ張られる。

ソラのひんやりした手の感触が伝わる。

「あのねおにいちゃん…ここ触ってみて」

そういうと引っ張った腕を自分の胸へと導いていく。

「ソ、ソラっ!そこは…!」

胸に突然手を押しつけられ、テンは顔を真っ赤にする。

少しだけ膨らんだ胸の柔らかい感触と、手のひらにあたるソラの小さな突起。

女の子の胸は触ってはいけないと母親には教えてもらっていたから、余計に恥ずかしかった。

「おにいちゃんの事を思うとね…ここがドキドキしてはやくなってくるの…」

トクントクンと、手を伝わってソラの小さな胸の音が聞こえてくる。

「私ね、思ったの…きっとこのドキドキはおにいちゃんが大好きだからって…私ずっと…ドキドキしていたい…」

頬を赤らめながら恥ずかしそうに言うソラ。

少し潤んだ唇が生まれて二度目のキスを望んでいるようだった。

「ソラ、もう一回キスしていい?」

「うん…」

窓からは月明かりをうけて銀色に光る砂漠の景色。

満月だけが二人を見守っていた…


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