そして翌朝になり、アベルとビアンカ、そして護衛でついて行ったピピンがルーラで戻ってきた。
しかし、アベルはビアンカとピピンに肩を担がれている。
「うーん、まだ頭が痛い。さすがに飲みすぎた…。」
「調子に乗ってヘンリーさんと飲み比べするからよ。あなたは人一倍お酒が弱いんだから。ひいてたわよ、マリアさん。」
「しっかりしてくださいよ、アベル様。ほら、城門でお子様方とサンチョさんがお出迎えしていますよ。…ん?あれ?」
三人は自分の目を疑った。そりゃそうだ。サンチョの陰に隠れるようして立っているタバサの髪の色が真っ青になっているからだ。
「どどどうしちゃったの?タバサ?」
「ただいま」の挨拶より前にアベルとビアンカは口を揃えて言った。
「お帰りなさいませ、お父様、お母様。実は、その…。」
口篭もるタバサに替わって、サンチョが答える。
「実は、タバサ様は自分の髪の色をちょっと変えてみようとしたら、失敗してこのような色になってしまったのでございます。タバサ様も反省しておられますのでどうかご容赦を…。」
「ふーむ、そうか…。」そう、アベルが言った後、ビアンカは続けた。
「タバサ、あなたも年頃だからそういうことに興味が出てくる気持ちも分からないでもないけど…。あなたは元のままでも充分にかわいいと思うわ。もっと元の自分を大切にしなさい。」
「それにお前の元の髪の色は母さん譲りの綺麗なものだ。それを変えるというのは母さんに対して申し訳ないと思わなかったのかい?まあ、やってしまったことはしょうがないから、今後気をつけなさい、タバサ。」
「ごめんなさい、これからは気をつけます。」
なんとか、うまくごまかせたようだ。両親はタバサが違うタバサであることに気づいていない。
そう、両親にすら気づかないくらい同じなのだ。違うのは、髪の色だけ…。
「それじゃ、サンチョ、今日は公務とかは入っていないから、もう休ませて欲しい。風呂は沸いているかな?」
「かしこまりました。ですが、一つだけお伝えしたいことが…。実は…。」
サンチョは周りの人には聞こえないようにしてアベルに真相を話した。
「!?…そういうことだったのか、にわかには信じがたい話だが…。」
「それで、坊ちゃ…アベル王はそういった呪法についてはご存知で…。」
「いや、僕にもちょっと良く分からない。ただ、そういった時空に関する話は妖精の国の人たちが詳しかったと思う。サンチョ、あの子を妖精の城へ連れて行ってくれないかな。空飛ぶ絨毯と妖精のホルンは宝物庫にあるから。僕も行きたいところだが、ちょっと体調がつらすぎる。情けないことだ。」
「分かりました。くれぐれもこのことはご内密に…。」
「ああ、わかっている。ビアンカにこのことを伝えたら本当に誤解されそうだ。それじゃ、よろしく頼んだぞ。」
「それではお風呂を沸かしに行ってきます。お疲れ様でした、アベル王」
と言って、サンチョは風呂場の方へ向かった。
「ねぇ、アベル?サンチョさんと何を話していたの?」
「えっ?うーん…、まあ、今後のあの二人の教育方針についてってとこかな?そうだ、ビアンカ、今日は一緒に風呂に入ろう!そうしよう!」
「んまあ、アベルったら!うふふふふっ!」
アベルはなんとか自分の生命の危機を乗り切ったようだ、とりあえずは。
場面は変わって、タバサの部屋へ。
タバサは複雑な気分だった。
お父さんは、結婚するとき相手をお母さんかビアンカさんかにするかどうかで真剣に悩んでいた、という話を周囲の人から聞いてしまったことがある。
その話を聞いてからビアンカさんに会ってみると、ビアンカさんの表情はどこか寂しげに見えた。
でも、こちらの世界では逆になっていて、こちらのビアンカさんはすごく幸せそうに見えた。
そんなことをタバサは思い浮かべていた。そのとき、ドアをノックする音が聞こえた。
「タバサ様、サンチョでございます。ちょっと、お話したいことがあります。」
「あ…はい、大丈夫です。鍵は開いています。」
タバサは返事をすると、サンチョは部屋に入り話を始めた。
「タバサ様、先程、お父様…アベル王に伺ってみたところ、妖精の国の人たちならそういった呪法に詳しい、と聞きました。そこでこれから妖精の城へ行きますので準備の程、よろしくお願いします。」
「あ、はい、分かりました。今から準備します。」
タバサはそう言うと準備を始めようとした、そのとき部屋の入り口の方から声がした。
「サンチョ、僕も妖精の城へ行くっ!」
二人が入り口の方を見るとレックスが立っていた。
「僕、決めたんだ。今、僕の妹の方のタバサも同じようにつらい思いをしていると思うんだ。でも、僕はあいつに何をしてやることもできないっ!だから、僕は…、………この子がこちらの世界にいる間、僕が手助けしてあげたいんだっ!」
「レックス様…よくぞ言いました。サンチョは感動いたしました。あとで、お父様に伺ってレックス様もご同行できるようお許しをもらってきます。」
「ありがとう…、本当にありがとう…。」
タバサはそう言うと思わず涙を流してしまった。
これは昨日までの悲しみの涙とは違う…違うんだ。
「それでは、サンチョはまたお父様に伺ってきますので、お二人はその間に準備を終えてください。」
「分かりましたー!」
二人は声を揃えて言った。