ネジ工場氏のSS…2

男の子「だ〜か〜ら〜、僕の方がお兄さんなんだってば!」

女の子「違うもん!私の方がお姉さんなのっ!」

幼い男女の子供が何か言いあっている。


女の子「だって、だって、私の方がかけっこも速いし、背だってレックスより大きいもん!」

男の子「うっ……」

女の子にそう言われ、レックスと呼ばれた男の子は泣きだしそうな顔になってしまった。

サンチョ「ほらほら、お二人とも。仲良くしなくちゃダメですよ」

小太りの男性が、二人の子供の肩にポンと手を置いて優しく言った。

サンチョ「どっちがお兄さんでもお姉さんでもいいじゃないですか。お二人とも坊ちゃんのかわいいお子さんです」

タバサ「だめ!とっても大事なことなのっ」

レックス「うん、そうだよ!」

どうやらこの双子は、どっちが兄(姉)かで、喧嘩(とはいっても、周りから見てるととても微笑ましい)をしているようだ。

ここは王のいない国、グランバニア。

人を温かな気持ちにさせる不思議な瞳。絶大なカリスマ性を持っていた前王、パパスの息子。

この二つの理由で国民皆から慕われていたアルス王と、その妻の姿が王座から消え、6年の月日が流れていた。

つまりレックスとタバサの双子は、親の顔を知らないまま6歳になったのだ。

レックス「ねえ、タバサ」

自分達の部屋に入るなりレックスが言う。

レックス「たしかに、かけっこと背の高さは負けちゃうけど、木登りは僕の方が得意だよねっ」

目をキラキラさせている。勝てる部分が見つかって嬉しいようだ。

タバサ「えっ、でも…」レックス「やっぱりさぁ、木登りが得意な方がお兄さんぽいよね〜」

タバサ「そ、そうなのかな……」

なぜ木登り得意な方がお兄さんらしいのか良く分からないが、タバサはいつも気付かないうちにレックスのペースに乗せられてしまう。

だが、自覚は無いが、タバサはそれがちょっぴりうれしかったりする。

レックス「だから僕がお兄さんね!それでいいでしょ?」

タバサ「……そうね」 レックス「ホント!?じゃあ、これからは僕のことをお兄ちゃんって…」

タバサ「わたしも明日木登りするっ!」

レックス「えぇっ!?」

タバサはちっちゃな拳を突き上げ、パッチリしたおめめをキリッとさせた。

レックス「で、でもタバサって高い所すっごいこわいんでしょ?」

タバサ「……がんばるからだいじょぶ…多分…。とにかく、明日おやつの後しょーぶするの!」

レックス「わ、わかったよ……」

タバサが何か言い張ると、レックスはその主張をなんでも聞いてしまう。自覚は無いが、レックスはそれがちょっぴり嬉しかったりする。

翌日、おやつにホットケーキを食べた後、双子は裏庭に来た。

タバサ「この木を登りましょ!」

レックス「ほ、ほんとうにこの木にするのぉ?」それは大きな木だった。25年程前、自分が留守にする間、この木が国を守ってくれるようにと、旅立つ直前にパパスが植えたものだ。

しかし、まだ6歳になったばかりの双子は、もちろんおじいちゃんが植えた木だなんて事は知らない。

レックス「じゃあ、先にてっぺんについた方が勝ちにする?」

タバサ「そ、そうね……。ぜったい負けないんだからっ!」

だいじょぶかなぁ…。

レックスは思った。強がってはいるものの、タバサの薄い唇はふるふると震えていた。

塀の上に登っただけで半べそをかいてしまうようなタバサなのだ。

でも、やる気になってるみたいだし、仕方ないかなぁ……。レックスは、うんうんと一人頷いた。

タバサ「じゃあスタートするよ?」

レックス「う、うん」

タバサ「よぉい……どぉん!」

2人はいっしょに木に飛びついた。

レックス「よっ…よっ……」

タバサ「うんしょ…うんしょ…」

小さな体を懸命に動かして、ちょこちょこと木をよじ登っていく。

レックス「よっと…。タバサー!だいじょぶ?」タバサ「うん、平気だよぉ。全然怖くないの!」自分が木を登っていることがなんだかうれしくて、タバサはニコニコと明るく答えた。

レックス「そっか」

この様子なら大丈夫だろうと思った。

このまま登れば、慣れている自分が勝つだろう。でも、タバサは苦手なのを我慢して頑張っているし……

タバサがお姉ちゃんでもいいかな…と、レックスは考えた。

そうして、てっぺんまであと4分の1を残すところまでレックスはきた。レックス(お姉ちゃんかぁ……。ボク、上手く呼べるかなぁ…)

この勝負が終わった後のことを考え、レックスは照れて笑った。

ふと気がつくと、タバサの姿がない。

レックス「あれっ、あれれっ!?」

慌てて下の方を見ると、木のちょうど半分くらいのところで、タバサの動きは止まっていた。

レックス「お〜い!どうしたの〜、タバサ〜!!」大きな声で呼びかける。返事を聞こうと耳をすましてみると、小さな泣き声が聞こえてきた。

タバサ「ひっく…ひっく…。つい下を見て……‥怖く…えっぐ…なっちゃったの……」

そう言って、タバサはレックスの方を見上げた。レックスの位置からでも、タバサの目から大粒の涙がぽろぽろこぼれているのがはっきり見えた。

レックス「待ってて!すぐに僕が助けてあげるからね!!」

言った途端にレックスは木を勢いよく滑り降り始めた。

固い木の皮が、レックスのまだ柔らかい腕にいくつもすり傷を作ったが、構わずに滑り続けた。

早く!もっと早く!タバサが怖くて泣いてるんだ!僕が助けなきゃ!!

痛みを忘れて滑ったおかげで、すぐにタバサのところにたどり着けた。

レックス「ふぅ…もうだいじょぶだよ、タバサ」タバサ「…ひっく、ひっく……うえぇ〜ん!!」

タバサは本格的に泣きだしてしまった。

レックスが来てくれた安心感、それと…自分のせいでレックスの腕を真っ赤にした事が、たまらなく悲しかった。

レックス「あはは…、心配しなくてもちゃんと降りられるよ。だから泣かないで……」

タバサ「…うん……ひっく、ひっく…」

レックスに腰を支えられ、木を降りる間も、きゅっとつむったタバサの目からこぼれ落ちる涙は止まることがなかった。

レックス「よっと!ほら、下についたよ」

タバサ「……ありがとう…」

レックス「いいよいいよ。そうだ…」

そう言ってレックスは、マントで涙を拭ってあげた。

その行為が、感情を一気に高めさせ、タバサはレックスに抱きついた。

タバサ「ありがとう……ごめんね?ごめんね…お兄ちゃぁん…!」

レックス「タバサ……」

レックスもしっかりタバサの体を抱きしめ、そうしたまま時間は過ぎた。

その夜、双子はサンチョの家に泊まりに行った。そして夕食を終え、食後のお茶を飲みながら会話をしていた。

タバサ「ふぅ、お腹いっぱい…。おいしかったね、お兄ちゃん!」

レックス「うん!ついつい食べすぎちゃった」

サンチョ「おや?」

サンチョは不思議だった。つい昨日までどっちが兄なのか姉なのか喧嘩していたのに…。

サンチョ「いつの間に、レックス様がお兄さんになったんです?」

レックス「それはね……え〜とね…」

タバサ「えへへ……内緒なの」

2人ともちょっぴり顔を赤くしてはにかんでいる。思い出して、照れてしまったのだろう。

サンチョ「ふむ…。まぁ仲良くしていただければ、私もうれしいです」

まん丸な笑顔で、サンチョは言った。

双子は、サンチョの笑顔が大好きだった。お腹のあたりがポカポカしてくるのだ。

しばらくして、眠くなったと言ってタバサはベッドに入った。

レックスも疲れてはいたが、なんだか眠くならなくて、サンチョとのおしゃべりを続けた。

サンチョ「そうだそうだ、レックス様はなぜお兄ちゃんになりたいと思われたんですか?」

レックス「え…うん、それはね……」

少し下を向いて、レックスは話し始めた。

レックス「僕達、お父さんとお母さんがいないでしょ…?それで寂しいんだと思うんだけど、タバサ、夜中によく泣いてるんだ。……だからさ、僕がお兄ちゃんになって、タバサのことをしっかり守ってあげたいって……そう思ったんだ」

サンチョ「レックスさま……」

涙もろいサンチョは、思わず泣きそうになってしまった。

「お兄ちゃん」というものに対する、子供らしい憧れだと思っていたのに…。

レックス「ふあ〜…。僕も眠くなっちゃった。おやすみ、サンチョ」

サンチョ「おやすみなさい……グスッ」

歯を磨き、タバサの眠るベッドに入ろうとすると、

タバサ「お兄ちゃん…」寝ているものとばかり思っていたので、レックスは驚いた。

レックス「お、起きてたの?」

タバサ「うん…ベッドに入ったらなんだか眠れなくなっちゃったの…」

レックス「じゃ、じゃあさっき僕が言ってたことを…」

タバサ「ん?なあに?なんのこと?」

レックス「え、いや…なんでもないよ!」

レックスは慌てて首を振った。

タバサは本当は全部聞いていた。だけど黙っていた。

それから、いつもレックスが裏庭の木の所で泣いているのも知っていて、だから、自分がお姉ちゃんになって慰めてあげたいと思っていたことも、小さな胸の奥にしまいこんだ。なんだか優しい気持ちになった。

タバサ「……サンチョはまだ起きてるの?」

レックス「うん…。またあの絵を見て泣いてるんじゃないかな」

サンチョが小さな絵を隠していて、双子が眠りについた後はいつも、それを見て泣いてることを、2人は知っていた。

タバサ「お兄ちゃん…。手をつないで寝てもいい?」

レックス「うん…いいよ」

おやすみなさい……。

2人はお互いの手の温かさを感じながら、静かな眠りに落ちていった。

裏庭の大きな木だけが、優しげな風に葉を揺らしながら、3人の夜を見守っていた。


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