ネジ工場氏のSS…3

トントン!

誰かがドアをノックしている。

サンチョ「はいはい、どなたですかな?」

タバサ「えへへ、こんにちわ!今日も来ちゃった」

サンチョ「ほっほっ、そろそろ来られる時間だと思っていましたよ」

朗らかに笑って、サンチョはタバサを迎えいれた。

タバサがレックスの妹になってから、3年ほどの時間が過ぎ、双子は9歳になっていた。

半年程前に父親の石像を見つけ出してからも、2人は父アルスと共に、母親の石像を探す旅を続けていた。

旅の合間にグランバニアへ帰って来ている間、タバサはこのように、一人でよくサンチョの家を訪ねていた。

サンチョ「今日も好きなだけ、た〜んとお読みになってくださいね」

タバサ「ありがと。うふふ、今日はどのご本から読もうかなぁ…」

顔いっぱいに嬉しさを示して、タバサは本棚にゆっくりちかづいた。

サンチョの家には子供向けの本がたくさんおいてあり、本を読むのが大好きなタバサは、このように通っているというわけだ。

サンチョ「お菓子とお紅茶、ここに置いておきますね」

タバサ「は、はい……。ありがとうなの…」

サンチョがテーブルの上いっぱいにお菓子を置きながら言った言葉に、タバサは、とても微妙な笑顔で答えた。前なら凄く嬉しかったんだけど……

タバサ(ああん、とっても美味しそうなんだけど…、太っちゃうのはヤなの……)

実は、この間ニコニコしながらクッキーを頬張っていると、

「タバサちゃん、そんなにお菓子ばっかり食べてると…、今に子豚ちゃんになっちゃうわよ〜!!」と、慕っているドリスお姉ちゃんから言われたのだった。

ドリスとしては、小動物みたいなタバサが可愛くてついついからかってみただけなのだが、タバサは結構気にしていた。

タバサ(おでぶさんになっちゃったら、お兄ちゃんとお父さんに嫌われちゃう…。がまん、がまんなの……)

頭の中に大好きな父と兄とを思い浮かべ、慌ててよだれを拭った。

タバサ9歳。ちっちゃくたって、女の子。

サンチョ「…これでよしと。あ、そうそうタバサさま」

これでもかと並べた菓子を満足げに見ながら、サンチョはタバサに呼びかけた。

サンチョ「私はこれから城で、ぼっちゃ…お父様と次の行き先についてお話ししてきますので」

タバサ「はーい、分かりました」

未だにお父さんを『坊ちゃん』と呼びそうになるサンチョがおかしくて、くすくす笑いながらタバサは返事した。

サンチョ「それでは、ゆっくり本を読んでくださいね」

タバサ「そうさせてもらうね。行ってらっしゃーい」

サンチョが出ていくと、タバサは本棚に戻った。猫や小鳥を見るときと同じ目をして、指で背表紙をなぞりながら、ゆっくりと本を探す。

タバサ「あれっ?」

タバサの指が、ある一冊でピタッと止まった。

他の本と比べ、その本は明らかに古かった。

タバサ「このご本だけ、すごく古いのね……だけど」

とっても暖かいものを感じる、と思った。

そっと、その本を抜き取る。

「仲良し4人ぐみ」というタイトルの絵本だった。

窓から入る柔らかい日差しを頬に受けながら、表紙をめくる。

タバサ「勇敢なゲレゲレ、かわいいチロル………かわいいチロルだって」クスッと笑って、タバサはいつも背中に乗せてくれるキラーパンサーの事を思い浮かべた。

えへへ、お父さんのお友達のチロルも、とってもかわいいもんね…

笑みを浮かべたまま次のページをめくろうとすると、ページとページの間から、小さな紙がパラリと落ちた。

タバサ「あら?なんだろう、これ…」

しゃがみこんでそれを拾って見てみると、それは鮮明な絵だった。

タバサはこんな絵を見るのは初めてだった。

絵の中には、やや強張った表情の戦士と、これ以上無いくらい笑顔の少年が映っていた。

タバサ「この子、私と同じくらいの歳かな?……ちょっと年下かもしれない…かな」

何故かその少年から目が離せない。

タバサ「とってもキレイな目…。きっと優しい子なのね」

その時、はっと気付いた。

タバサ「そっか!この子…、お兄ちゃんに似てるんだ」

髪の色こそ違うものの、絵の少年はその笑顔や、立ち姿の雰囲気が、兄のレックスとそっくりだったのだ。

タバサ「どんな子なのかなぁ…グランバニアに住んでいるのかな?……サンチョの知ってる子かしら」

あれこれ考えているうちに、タバサはその少年が気になって仕方なくなった。

タバサ「……会ってみたいなぁ」

大きな目をうっとりさせて、タバサは呟いた。

兄に似ているからなのか、それとも優しそうでありながら強さも感じる瞳をしているからなのか、タバサはその少年にちょっぴり心を惹かれていた。

ガチャッ!!

その時、いきなり玄関のドアが開いた。

レックス「おじゃましまーす。……あはは!やっぱりタバサここだったんだね!」

タバサ「きゃっ!お、お兄ちゃん!?」

頬をほんのりピンクに染めて、兄と少年をだぶらせながら恋する乙女を演じていたタバサは、椅子からとび上がるほど驚いた。

タバサ「ど、どうしたの……かな…」

レックス「えっ、ど、ど、どうしたかって…」

恥ずかしそうに両手をもじもじさせながら、上目づかい気味に潤んだ瞳を向けてくるタバサがたまらなく可愛く見えて、レックスの胸の鼓動は激しくなった。

レックス「ピ、ピピンがさぁ!父さんやサンチョと話し合いに行って暇になっちゃったから……タバサどこかな、と思ったんだ」

タバサ「そうなんだ…」レックスの声のトーンが妙に高い事にも気づかずに、恥ずかしそうにレックスから視線を逸らす真っ赤なタバサ。

その素振りのために、レックスはさらにドキドキする。

レックス「あっ!!こ、これはなにかなーっと!」自分の胸の音を隠すために、わざと大きな声を出して、タバサが持っている紙を奪う。

タバサ「あ……」

レックス「へ、へぇ!キレイな絵だねっ!!……………はっ!?」

無理やりハイテンションに喋るレックスは、絵の中の少年に気付いた。

レックス「あ、あはは!この子って誰…?」

タバサ「わ、わかんないの…」

そう言ってうつむくタバサ。本当にどこの誰か分からない様子なのに、ハイテンションレックスには正常な判断など出来はしない。

ガーン!ぼ、僕に内緒にするなんてっ!!今までおねしょのこともイタズラのことも……2人でなんでも話してたのにっ!!

いったいコイツは……タバサのなんなんだ!?

どんどんおかしくなるレックス。

泣きそうな気持ちや怒り狂いそうな気持ちを隠して、今度は冷静さを装ってレックスが言う。

レックス「分かった!タバサはこの子の事が好きなんだね?ヒューヒューッ!」

言ったことを後悔した。レックスの言葉を聞いた途端、赤かったタバサの顔が更にカーッ!と赤くなってしまったのだ。

タバサ「そっ…そんなんじゃないもんっ!!お兄ちゃんなんて………………だいっっきらい!!」

レックス「…あ……」

兄の手から絵を奪うと、タバサは少し涙を貯めて、サンチョの家から走って出て行ってしまった。

レックス「だいっきらい…。僕のこと、だいっきらい……」

後に一人残されたレックスは、放心状態になった。そして、少したってからべそをかき始めた。

レックス「ぐすん……くそう…、なんであんな弱そうな男の子のことが好きなんだ?顔だって凄くヘンなのに…」

絵の中の少年が自分にそっくりだったことに気付かないレックスは、ボロクソにけなした。

レックス「あんなぼ〜っとした奴より、僕の方がタバサのこと守れるのに……」

かわいいかわいい、大好きな妹なのに……。

自分の部屋に戻ったタバサは、ひどく落ち込んでいた。

タバサ「はぁ……。なんで大嫌いなんて言っちゃったんだろう…」

大好きなお兄ちゃんなのに…。

昼間サンチョの部屋での妄想の中では、2人で見つめあってお空を飛んでたのに……。

しかし、その妄想の中のレックスには、絵の少年のイメージがちょっぴり混ざっていたことを、タバサは思い出した。

タバサ「絵をちょっと見ただけなのに、なんでだろう…?私、あの子のことも、少しだけ好きなのかな……?お兄ちゃんに似てるから…?」

クシャクシャと髪の毛をかきむしった。

タバサ「……いや〜ん!わたし、わたしっ……、『あくじょ』になっちゃうよお!」

ドリスに教えてもらったばかりの言葉を使い、タバサは悶え苦しんだ。

双子の眠れぬ夜は少しずつ更けていく。

ベッドの上に置かれた絵の少年だけは、変わらずに笑顔のままだった。


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