彼の名はプサン、又の名を全知全能の神マスタードラゴン。
プサンがアルスの治めるグランバニアに訪れる所からこの物語は幕を開ける。
それは、悲しくも二人の愛する者同士を引き裂くこととなる運命・・・。
「ピピン殿、アルス王はおりますかな?」
その言葉に振り返る兵士。その名はピピン
「おお、これはプサンさま。お久しぶりで御座います。」
かつての旅の仲間と再会する二人。プサンの顔からはいつもの穏やかさはみられず、ピピンは彼をアルス王の玉座へと連れて行く。
「王様、プサンさまがお見えになりました。」
ピピンはその場にひざまづく。
「ご苦労様、ピピン。下がっていいですよ。」
ピピンが部屋を出るのを見届けたアルス。すぐさま椅子から腰を上げ、プサンへひざまづく。
「お久しぶりです。マスタードラゴンさま。」
その姿を見てプサンは両手をアルスに向け左右に振りながら。
「あ〜いいですよ、そんなにかしこまらなくても・・。それに今の私はプサンですよ、プ・サ・ン。」
にっこり微笑みながらプサンはアルスに声をかける。その言葉にアルスは顔をあげ
「はい、ありがとうございます。それで・・・今日は何か御用が・・?」
プサンの突然の訪問を聞くアルス。シリアスな顔をしたプサンが口を開く。
「ええ、すまないのですが、勇者レックスくんと一緒に天空城に来ていただけますか?とても大事なお話がありまして・・・。至急・・・。」
風雲急を知らせるかの如く、アルスは急いで庭で剣の素振りをしていたレックスを連れて天空城へと向かう。
大空を根城にする此処、天空城。雲の上にあるわりには下界とほぼ変わらない空気。あたりを見回せば背中に羽を生やした老若男女が勇者レックスとその父アルスの到着を今か今かと待ちわびていた。
二人の到着にざわめく一同。一人の老人がアルス達に近づき一言
「へそ。」
『!?!?!?!?!?!?!?』
驚くのも無理はない。天空城で流行の挨拶など下界まで届くわけは無いのだから・・・。
マスタードラゴンの玉座に案内される二人。そこには先ほどまでのオッサンとは違い、一度羽ばたけば一つの山を越えると言われる翼、
鉄をも切り裂くだろう大きな爪、金色に輝く鋼のような身体、その者の本質を見抜くと言われる鋭い眼光を持った神竜、マスタードラゴンの姿があった。
二人はひざまづき、アルスから先に口を開く
「マスタードラゴンさま。勇者レックスとグランバニア王アルス、只今到着しました。それで、お話と言うのは?」
「うむ、まずは面をあげなさい。・・・話と言うのはだね、ここ数年で魔物らの活動がまた活発になって来てるのは知っておるね?」
マスタードラゴンの言葉に面をあげ、答えるレックス
「はい。今まで温厚だった魔物が、人を襲うと言う事件が起きているのは耳にしております。」
マスタードラゴンはコクリとうなづき、こう続ける。
「奴が目覚めたからなのだ・・・。」
その言葉に二人は顔を見合わせ、マスタードラゴンの姿をじっと見つめる
「奴・・・とは・・・?」
アルスはゴクリと生唾を飲み込みながら、マスタードラゴンの話を聞き入る
「奴の名は・・・地獄の帝王『エスターク』・・・!!」
「エス・・・ターク・・・?」
レックスはハッと思い出す。以前、タバサの読んでいた本の内容を・・・。
そこにはこう記されている。『導かれし者たち、眠りから目覚める地獄の帝王エスタークをその力によって封ず』と・・・。
「うむ、奴が目覚めてしまったのだ・・・。今は魔界のエビルマウンテンのはるか地下でその身を潜めているのだが、その身体から発する邪気はかつての大魔王ミスドラースを上回っておる・・・。」
アルスはマスタードラゴンの話を聞いて右手にこぶしを作った。
「・・・では・・・今すぐ、我が仲間を連れてその『エスターク』を今一度封印しに!!!」
それを聞いたマスタードラゴンは、二人に向かってこう叫ぶ。
「ならぬ!今の奴は深い眠りから覚め完全体となっておるのだ!そなた等がいかにミルドラースを倒した人間といえど、奴には・・・適わぬ・・・。」
マスタードラゴンの突然の咆哮にひるむ二人。レックスが声を震わせながら
「そんな・・・ではどうすれば・・・?」
フゥと一息つけるマスタードラゴン。次にマスタードラゴンからの言葉は、二人の・・いや、人間の想像を遥かに超越したものだった・・・。
「過去に行って奴を・・・今一度封印するのだ。」
その言葉に驚きを隠せない二人。アルスが口を開く
「か・・こ・・に?どのようにして??」
その質問に、マスタードラゴンはゆっくりと口を開く
「うむ、わしの『時の砂の呪法』を使って勇者レックス。主を過去に送る。そこで『天空の剣』を奴の眉間に突き立てることが出来れば・・エスタークはこの時代に目覚める事は無くなるのだ・・・。」
「僕が・・・過去に・・・?」
うなづくマスタードラゴン。レックスが続けて問いかける。
「しかし、僕が過去の世界に飛んだら・・・帰りはどのようにして?(そうだよ・・・、僕がタバサともう会えなくなる・・・考えられないし・・・。)」
マスタードラゴンがレックスの顔を優しく見つめながらこう答える。
「よいか、現代のわしが『時の砂の呪法』を使えるということは、過去のわしも『時の砂の呪法』を使えるのだ。故に、主がエスタークを封印することが出来たならば、その過去のわしが主を現代に『時の砂の呪法』で送り帰すというわけだ。」
それでも心配そうな顔をするレックス。その顔を隣にいた父はマスタードラゴンにさらに問いかける。
「過去のマスタードラゴンさまにはどのようにしてこの事を伝えるのですか・・・?」
もっともな話だ。現代から過去へのマスタードラゴンに出会えなければ、レックスは二度とこの世界に帰ってくることが出来ないのだから・・・。
やはりそこはマスタードラゴン。彼らの心配を取り払うかのように答える。
「主らに以前渡した『天空の鈴』があるであろう?それはわしにしか聞こえぬ音色。故に、空が見渡せる場所で鳴らすことで、わしの念がその時代のマスタードラゴンに伝える事が出来るのだ。頼むぞ・・・勇者レックスよ・・・。」
レックスは人類の存亡を託され城をあとにする。一人の天空人の話によれば、マスタードラゴンは魔界に結界を張り巡らせており今はその場を離れることは出来ないそうだ。
そして、先ほどグランバニアに現れたプサンは、マスタードラゴンの思念により作らされた幻なのだというらしい。
DQ外伝〜再び〜 前編・完