ペコ氏のSS…12

翌日、暖かい春の木漏れ日差しの中、勇者レックスは大いなる災いの火を紡ぐため、天空城に訪れる。

「また、よろしくね・・・。」

そう言ってレックスは天空城の一室に保管されてある天空の武具に触れる。

それまでかすかな光に包まれていた天空の武具は、一瞬だが強い光を放ち、レックスの身体に装着されていく。

「レックスさま、用意のほうが出来ましたら、マスタードラゴンさまの元へ・・・。」

一人の天空人がレックスにそう話しかけると、レックスは部屋をあとにし玉座の間へと足を運ぶ。

「勇者レックスよ、準備はよいかな?」

マスタードラゴンの問いかけにレックスは軽くうなづき、目を閉じる。

「(タバサ・・・。やっぱり怒ってるかな・・・。)」

それは昨日、アルスとレックスがグランバニアに戻ってからの出来事。

「私も行く!!」

「駄目だよ!」

二人の口論はだんだんとその声を大きくしていく。

「どうして?なんでついて行っちゃいけないの?」

さっきから同じ質問がレックスに繰り返される。レックスも答え続ける。

「だ・か・ら、タバサは天空の剣装備出来ないでしょ?」

プーッと頬を膨らませ、真っ赤な顔をするタバサ。まるでトマトの様だ。

その顔を見て噴出しそうになるレックスだが、断固としてタバサの同行を認めようとはしなかった。

しならく言い争いが続くと、レックスはタバサを後ろから抱きしめこう話す。

「わかってよ・・・タバサ・・・。絶対、絶対帰ってきて・・またこうしてギュッてしてあげるから・・・ね?」

タバサは肩を震わせながらこう答える。

「ずるいよ・・・そんなこと言われたら・・・待ってるしかないじゃない・・・!なんで、なんで・・・お兄ちゃんがそんな危ない事しなきゃいけないのよ・・・勇者だから?」

声を殺して泣くタバサに、レックスは抱きしめたその手に力をいれて

「タバサ・・泣かないで・・・。僕だって・・本当は怖いんだ・・行きたくないんだ・・。でもね、・・僕は勇者だから・・・、行かないと・・・!!」

「痛いよ・・・お兄ちゃん・・・。」

その言葉を聞いてすぐさま手を離すレックス。

「ご、ごめん・・。」

流した涙を拭いタバサはレックスに一言ポツリと呟いて部屋をあとにする。

「もう・・・いい・・・。」

あれから一睡も出来なかったレックス。体調は万全とは言い難いが、そんな事を言ってる猶予があるわけでもなく、マスタードラゴンの詠唱が始まる。

「時の流れよ、我の命に従い、その者を時空の渦へと誘(いざな)いたまえ・・・。」

そう唱えると、レックスの周りに金色の渦が現れ、足元から頭の先までを多い尽くすかのようにレックスを取り込んでいく。

「よいか・・勇者レックスよ・・・これより主は今から20年前のエスタークの元へ送り届ける。主が背負う天空の剣を彼奴の眉間に突き立てるのだ・・・!」

マスタードラゴンの言葉がレックスの頭の中に直接問いかけてくる。しかし、その瞬間、遠く、遥か遠く魔界の地下より、エスタークの波動が天空城を突き抜ける・・!!

「グオオオオオ!!マスタードラゴンよ、貴様の思い通りにはさせぬぞ!!!」

その波動にひるむ天空の民、マスタードラゴンの時の砂の呪法の一瞬のスキをついてエスタークが力を解放する。

「い、いかん、ック・・。勇者よ、主に全てを託す・・!」

力を振り絞るかのようなマスタードラゴンの咆哮。時の流れを行くレックスにもその声は届く。

だが、エスタークの恐ろしい程までの力が時の流れに歪みを作り、あろうことかレックスはその歪みに吸い込まれてしまった。

「う、ウワワワァァァァァアア!!」

どれくらい眠っていたのだろう。レックスはあまりの暑さに目を覚まし辺りを見回す。

そこには、異様な臭気と魔物の気配が入り乱れ、目の前にはとてつもなく大きな何かの黒い塊が静かに呼吸をしていた。

「これが・・エスターク?」

その姿は、あまりにも大きく、巨大で、レックスの足は一瞬すくんでしまい、その場を動く事が出来なくなってしまった。

「と、とにかく・・奴の眉間に天空の剣を・・・。」

ゆっくり、一歩ずつエスタークに近寄ったレックスだが、後ろから思い出したくも無いアイツの声が聞こえてきて振り返った。

「ホホホホ、人の子がなんでこんな所にいるんでしょうねぇ・・・。」

「お前は・・・ゲマ!」

その答えに驚いた表情を見せるゲマ。

「おやおや、なんで人の子ごときが、私の名前を知っているのか・・・。」

混乱するレックスだが、自分が今は過去に来ている事を思い出し、今目の前にいるゲマはかつてレックス達が倒したゲマとは違いこの時代のゲマだということに気づく。

「(まさか・・・来る時代がずれてる?あの歪みか・・・。)」

「ホホホホ、そんなことはどうでもいいですね・・・とにかく人の子よ、そこを退きなさい!そこにおられる方こそ、我ら魔族の英雄、エスターク様なるぞ!」

そう言って右手に巨大な火球を作り上げるゲマ。そのままレックスに向かって投げつける。

しかし、レックスはその火球を間一髪で避け、その流れ弾はあろうことかエスタークの顔面に当たり、レックスは慌てるゲマに向かって剣を抜き斬りかかる!

激しい攻防が続く中、勇者と魔族の力のぶつかり合いに刺激され、深い眠りについていたエスタークが目を覚ます・・。

ゆっくりと目を開け、右腕を振り上げるエスターク、二人はその気配に気づき、エスタークの方に目を向ける。

一瞬の風がレックスの横を通り抜けた瞬間、ゲマの身体は二つに切り裂かれ、レックスはその一撃に恐怖を覚える。

「ギャアアアアア!エ、エスタークさまぁぁっぁあぁあああ!!」

ゲマは真っ二つに割れた自分の身体を両手で支えながら、レックスとの距離を置き、こう叫ぶ。

「わ、私目は・・同じ・・・魔族ではありませんかぁぁぁああ・・!!」

しかし、エスタークには二人が自分の眠りを妨げる害虫にしか見えておらず、ゲマはレックスにこう叫びその場を逃れる。

「お、おのれぇぇぇぇえ!エスタークごときが・・・!チクショウ・・チクショーー!!覚えておけよ!人の子!!この、この私にこんな侮辱をさせおってぇぇぇぇええ!!貴様の血を引くものは・・この・・この傷が癒
えたら必ず・・切り刻んでみせますからねぇぇぇぇええ!!」

広い空間にはエスタークに対峙するレックスがただ一人。レックスはその敵から発せられる波動に身動きがとれず、それは確実な『死』を予感するかのように冷や汗がとめどなく背中を伝わり落ちた。

「しまった・・・起きちゃった・・・。」


DQ外伝〜再び〜 後編・完


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