コリンズくんの事件の日からしばらくして…
ボクは、グランバニアのシキタリで王様になるためには
お城から北東にある試練の洞窟をクリアしなければならないことを聞かされた。
「しきたりとは言っても、キミは洞窟をクリアするだけならもう充分に強くなっているね。
だから何も心配はしていない。
ちょっとソコまでお使いに行って来る程度の感覚で行って来てくれたら良いんだよ。頑張ってね」
ボクとタバサが産まれる直前にお父さんが行ってきたっていう試練の洞窟…
そこにある「王家の紋章」を取ってくれば良いみたい。
王様になるための試練だなんて、ちょっと緊張するなぁ…
ボクは身の引き締まる思いで、お父さんの部屋を出ようとした…
「ねぇお父さん、私もおにいちゃんについて行っちゃダメですか? 私も、おにいちゃんと一緒に行きたいです…」
「ふふっ… そういうと思ったよ。しっかり、お兄ちゃんを助けてあげるんだよ?」
「は、はいッ! お父さん!!」
というワケで、タバサも一緒に試練を受けることになった…
…となると、タバサが女王様でも良くなるなぁ… タバサ女王様かぁ…
ボクはグリンガムのムチを装備しているタバサの方を見てみた。
…(*´Д`*)マズイ… コレ イジョウノ ソウゾウハ ヤメテオコウ…
「また、おにいちゃんと冒険ができるね… 私、すごく嬉しいの…」
「まぁ今回はお使いみたいな簡単な冒険って話だけどね。
でも試練だから、一応気は抜かずに行こう。がんばろうねタバサ」
「うん、おにいちゃん。今回はプックルもついて来ないみたいだし、ホントに2人っきりだね。
だから、私がおにいちゃんを守ってあげるの」
「あははは、頼もしいな。期待してるよ!!」
ボクとタバサは、初めての2人きりの冒険に胸を躍らせていた。
試練の洞窟に着くまでも着いてからも、何度か魔物との闘いはあったけれど
以前のような凶暴さが無かったのでどれも楽々やり過ごして進んでいくことができた。
そして難なく最深部まで到達し、王家の紋章を手に入れて、さぁ帰ろう。
そう思った時だった…
背後に恐ろしい殺気を感じた…
驚いて後ろを向くと、何とそこには1匹の大きなヘルバトラーが突っ立っていた!!
今まで出会ったことのあるヘルバトラーとは明らかに違う… 何なんだコイツはッ!!?
「お前達か、伝説の勇者というのは…」
仲間モンスターのバトラーさんとは掛け離れた、低くて重い声…
ボクは怖くて足がすくんでしまう前にヘルバトラーに向かって叫んだ!!
「そうだッ!! だったら何だって言うんだッ!?」
「…あのお方の復活は止めさせぬ… お前達には今ここで死んでもらう!!! 行くぞッ!!!!」
そう言うなりヘルバトラーは灼熱炎を吐き出してきた!!
ボクはとっさにタバサを後ろに庇い、フバーハを唱え、炎をやりすごそうとした。
でも、コイツはただのヘルバトラーじゃなかった…
炎の威力はあのエスターク以上かもしれない…
「うぐ…ッ!! タバサ!! 大丈夫!?」
「おにいちゃん!! 私は大丈夫だから、攻撃に専念してッ!! バイキルト!!!!」
ボクは天空の剣を抜き放ち、全力で斬りかかっていった!!
ヘルバトラーはボクの攻撃を受け、激しく流血していたけど
何事もないかのように次々と攻撃を繰り出してきた!!
くそぅ… 何てヤツだ…!
大魔王が滅びたっていうのに、まだこんなヤツがいたなんて…!!
ボクはタバサに攻撃の矛先が向かないように
常にヘルバトラーの気をボクの方に向けさせるように矢継ぎ早に攻撃を繰り返し
それでも時々タバサにベホマをかけながら闘った。
「ああどうしよう… アイツにはイオナズンは効かない。これじゃあおにいちゃんの足手まといになっちゃう… だったら… アレをやってみよう…」
ボクはだんだん体力にも魔力にも限界が近づいているのが分かった。
血だらけのヘルバトラーの攻撃は衰える様子も無い… マズイ… このままでは…!!
そんなイヤなことを考えた時だった。
突然、ボクの背後から凄まじい咆哮が聞こえ、大きなヘルバトラーはすくみあがった!!
ボクが振り返ると同時に、ドラゴラムの呪文で黄金色のドラゴンに変身したタバサは
もの凄い勢いでヘルバトラーに向かって突進していった!!
「グアァッ!!!」と悲鳴を上げて
後ろの壁まで勢い良く吹っ飛んだヘルバトラーは、初めて苦痛の表情を見せた。
「今だ!!」
ボクはこのチャンスを逃さずに、トドメの一撃を放った。
捨て台詞も残さずに絶命したヘルバトラーを見届けてから
ボクはドラゴラムが解けて倒れているタバサに駆け寄った。
「タバサ!! タバサ、大丈夫!? しっかりしてッ!!」
「う… お、おにいちゃ… 無事…だったんだ… よ、良かった…」
ボクのカオを見てそう言うとタバサは安心したのか、気絶してしまった…
残る全魔力を回復魔法に注ぎ込んでみたけど、タバサは目を覚まさなかった。
「タバサ? どうしたって言うんだ!? 何で目を開けてくれないんだッ!!?お願いだよ… 目を覚ましてよ… ねぇタバサ… タバサ…」
ボクは泣きながら、ぐったりしているタバサを背負って、急いで洞窟を引き返した。
くそぅ… ボクが甘かった… 魔力を回復できるモノくらい持ってくるべきだったのに…
ボクのせいだ… ボクのチカラが足りないせいでタバサは…
でも、何だってこんなところにあれほどのチカラを持ったヤツが居たんだろう?
お父さんが設置した新しい試練…? いや、それにしては凶悪すぎる魔物だ…
あの時タバサが捨て身の攻撃をしてくれなければ確実にボクはやられていた…
「私がおにいちゃんを守ってあげるの」
「あははは、頼もしいな。期待してるよ!!」
洞窟に来る前の会話だ…
バカ!! ボクのバカッ!!! 本当に守られてどうするんだ!!?
お城に着くと、お父さんはすぐにボクとタバサの手当てをしてくれたけど
やっぱりタバサが目を覚ますことはなかった…
お父さんに、試練の洞窟で会ったヘルバトラーのことを聞いてみたけど
ちょっと前にお父さんが「王家の紋章」を置きに行った時にはいなかったみたい…
でも今はヘルバトラーのことなんかより、どうしたらタバサが目を覚ましてくれるか考える時だ。
「そうか… タバサはドラゴンに変身して体当たりしたのか…それではタバサの身体への衝撃は相当なものだったろうね。恐らくメガンテと同じくらいの…」
「ねぇお父さん… ベホマもザオリクも効かないなんて… いったいどうしたら良いの? どうしたらタバサは起きてくれるの…?ぼ、ボクのせいで… タバサが… タバサが… ふぇ… ぇぇ…」
ボクはお父さんにすがりつき、ただ泣くことしか出来なかった。
こうして泣いている間にも、お父さんは頭をフル回転させているようだった。そして…
「あっ、そうだ!!」と手を叩き、書斎に入っていった。
しばらくして、お父さんは一冊の古い薬草図鑑を持ってきた。
「サンチョ、これなんかどうだろう? 効果あると思わないか?」
「は、はぁ確かに… しかし坊ちゃん、コレはもうはるか昔に絶滅してしまった万能薬です。残念ですが、もう世界中どこにも無いでしょうな…」
「なになに!? どんな薬草なの!? ボクにも見せてッ!!」
ボクは強引にサンチョさんから図鑑を奪い取って、開かれたページを見てみた。
そこには、かつて伝説の勇者の仲間が倒れたときの治療薬として使われたっていう
「パデキア」のことが書かれていた… なるほど、確かにコレならタバサは目を覚ますかも。
「レックス様、残念ですがパデキアはもう…」
「そんなの!! 探してみなきゃ分からないよッ!! 探しもせずに諦めたくなんかない!!」
ボクはムキになってサンチョさんに言った。
タバサが目を覚ますんだったら世界中の草の根を分けてでもパデキアを探してやるんだ…!!
「2人とも落ち着くんだ… 僕が何の手がかりもなしにパデキアのことを持ち出すと思うのかい?」
「えっ!? ぼ、坊ちゃん!! パデキアを見たことがあるんですか!?」
「いや、そうじゃないよサンチョ。でもちょっと気になることがあるんだよ」
そう言ってお父さんは、ルラフェンに住んでいる失われた古代魔法を研究する
ベネットおじいさんのことを話してくれた。
その人は古代魔法復活のために、変わった薬草をいっぱい集めていたんだって…
その中の1つにパデキアがあったような気がする、とお父さんは言った。
「じゃあ、ボクがルラフェンに行って貰ってくる!! 良いよねお父さん!?」
「ああ、任せたよレックス。キミが戻るまでの間、タバサには回復魔法をかけ続けておくからね。一応プックルを連れて行くんだ。何が起こるか分からないからね…」
「うん! お父さん、タバサのこと、お願いねッ!!」
「あ、そうだ。ちょっと待っててね。 ベネットじいさん、確か『聖なる水差し』を欲しがっていたっけ… どこにしまったかな?サンチョ、探すの手伝ってくれるかい?」
「はい坊ちゃん!!」
…部屋はボクとタバサの2人きり。ボクは眠っているタバサにカオを近づけて言った。
待っててねタバサ。すぐにパデキアを持って帰ってくるからね。
元気になったら、また2人で冒険に出掛けようね… 今度はボクがタバサを守ってあげるからさ。
だからそれまで… 絶対に死んじゃダメだよ… ボク、がんばるから…
ボクは暖かいタバサの唇にそっとキスしてから部屋を出た。
ボクはプックルとメッキーと一緒に滝の洞窟にいた。
ベネットじいさんのお使いのためだ。
ルラフェンにあるベネットじいさんの家には
品種改良を繰り返して作られたパデキアに近い薬草があったんだけど
これではまだ不完全で、より完全なパデキアにするためには
この滝の洞窟の最深部に近い場所にある「聖なる泉」の水が必要なんだって…
なるほど… その泉の水を持ち帰るために『聖なる水差し』が必要だったんだ。
程なくして、ボク達は「聖なる泉」に辿り着いたけれど
そこに待っていたのは、天空城の魔物図鑑でしか見たことがないギガデーモンだった!!
おそらくこの魔物も、試練の洞窟で闘ったヘルバトラーと似たような強さの持ち主だろうな…
「よく来たな、天空の勇者よ!! ここまで来た褒美にお前たちの後ろにあるモノを… うおっ!?」
ここまでギガデーモンが喋ったところで
プックルとメッキーは、ギガデーモンが身構えるより速くいきなり襲い掛かっていった!!!
「お、おのれ…!! 卑怯だぞ勇者よッ!!!」
「ごめんね。でも今はキミと話してる余裕は無いんだよ。悪いけど、そこをどいてもらうよッ!!」
こうしている間にもタバサは苦しんでいるんだ…
そう思うと、目の前の魔物なんかただの障害物にすぎないように思える。
今回はちゃんと「エルフの飲み薬」も持ってきたし
何よりすぐそこにある「聖なる泉」で回復できる…
でも、それをギガデーモンに利用されないように一気に勝負を決めてしまおうと
ボクは魔力の続く限りギガデインを唱え続けた!!
「お、おのれぇ… このワシが… こんな簡単に… え、エビ、、プ、、さまぁ… ぐふっ」
ボクは、泉の水を『聖なる水差し』に注ぎ込み、急いでベネットじいさんの家に戻った。
これで… これでタバサを元気にしてあげられる…!!
そう思うとルラフェンの街中を歩く速度も速まった。
「おお!! おお!! ご苦労じゃったのう!!! 思えばお前達親子には随分協力をしてもらったのう… 中々どうしてお前達のような親子が──」
「おじいさん! お話は良いから早くパデキアを…」
「…ふぅむ、若いモンはせっかちでイカンのう… 老人の話はキチンと聞いてこそ──」
「おじいさんッ!!!」
「わかったわかった… ちょっと待っておれ… この種子に聖なる水を注ぎ込めば…」
ベネットじいさんが庭に植えてある不思議な植物の種子に水を注ぎ込むと
その種子を手に取り、ボクに差し出した。
「うむ… ではこれを持ってカボチ村に行きなされ。そこの村長に、ベネットが遂にやったぞ、と言えば何のことか分かるじゃろうてな…」
「え? これで完成じゃないの!?」
「…ふぅむ、若いモンはせっかちでイカンのう… とにかく、カボチに行くのじゃ。そこの土の方が、より良いモノに仕上がるでな」
「そうなんだ… ありがと、おじいさん。また会いに来るからねッ!!」
ボク達は、今度は急いでカボチ村に向かった。
村人達の中にはプックルを見ると、何故か申し訳無さそうに野菜を差し出す人も居たけど…
今はそんなことより村長さんに会わなきゃね。
村長さんにパデキアの種を見せると「あのじいさん、遂にやりおったか…」と言って
喜び勇んで村の畑に種を植えた。
植えられたパデキアの種は、みるみるうちに成長して、あっと言う間に綺麗で可愛い花をつけた。
村長さんは土を掘り返し、根っこをボクに差し出してきた。
「ほれ、コレが伝説の万能薬、パデキアの根っこじゃ。早よう持って帰って、妹さんに煎じて飲ませてやりなされ」
「ありがとう村長さん!!あ、あと、この花ももらっていっても良いですか? タバサが… 喜ぶと思うので…」
村長さんは快くOKしてくれたので、遠慮なくもらっていくことにする。
ボクはグランバニアに戻ると、サンチョさんに頼んでパデキアの根っこを煎じてもらった。
タバサの傍には、ずっと回復魔法をかけ続けて疲れきったお父さんが居た。
「お父さんただいま!! タバサの様子はどう!?」
「ああ、おかえりレックス… タバサはあれから何も変化はないよ…キミはその様子だと、無事にパデキアを手に入れたんだね?」
「うん!! 今サンチョさんに煎じてもらってる。もうすぐタバサを助けられるよ!!!」
「坊ちゃん!! レックス様!! 出来上がりましたよ!! さぁ、早くタバサ様に!!」
「ありがとうサンチョさん!!」
ボクはタバサの口元にスプーンを持っていき、薬を飲ませようとした。
でもタバサの口は閉じていて、上手く飲ませることが出来なかった…
「タバサ、タバサ!! お願いだよ… 口を開けて飲んでくれよ!!こんな時に苦いのはイヤだ、なんて言ってないでよ… タバサ… 飲んでよ…」
みんながこちらを見守っている…
お父さん、お母さん、サンチョさん、オジロンさん、ドリスお姉ちゃん、プックル…
ボクは少し躊躇したけれど、伝説の万能薬を自分の口に含み、可愛いタバサに口移しで飲ませた…
その場に居たみんなが「!!!!」って反応をしたのが分かって恥ずかしかった…
でも、薬を全部飲み終えるまで、ボクはソレを続けた。2回、3回、4回、5回…
ボクはみんなの前で何回もタバサにキスをした…
全部飲み終えてからしばらくして… タバサはゆっくりと目を覚ました。
「タバサ… おはようタバサ…」
ボクはそう言ってタバサを抱きしめた。
「お、おにいちゃん… どうしたの? み、みんなが見てるの… 恥ずかしいです…」
「ああ、ああ、そうだね… みんな見てるね… 恥ずかしいね…でもボクは今、恥ずかしさ以上に嬉しさでいっぱいだよ… タバサ…」