杖探し氏のSS…1

杖を探しに 第一部


「ちょっと。レックス様!聞いてますか?明日からの旅は―――」

サンチョの声が響く。

「ちゃんと聞いてるよ。で、何だっけ?」

「お兄ちゃん。全然・・・」


そう、明日から僕たちは、お父さんとお母さんを探しに旅に出るんだ。

長い旅になるってサンチョは言ってた。

でも僕たちが探しに行かなきゃ。まだお父さんにもお母さんにも会ったことが無いから。

どんな人なのかも知らない。サンチョがよく僕はお母さんに似てるって言うけどさ、分かんない。

だって会ったことも見たこともないんだもん・・・。


「いいですか。もう一回説明します。今度はちゃんと聞いててくださいよ。

グランバニア兵の証言によると、坊ちゃ…、いや、お父様は石にさせられてしまったらしいのです。

この城の北西に塔があることはあなたがたも知ってるでしょう?

あの塔でお父様とお母様が石にさせられ、盗賊どもにもっていかれたところを見ていた兵がいたのです。

本当ならばすぐにでも探しに行きたかったのですけど、生まれたばかりの幼いあなた方を放っておくわけにも

行きませんでした。その間、私たちは石になってしまったあなた方のご両親を元に戻す方法を探していました。

そして、つ、ついに見つかったのであります。

その方法とは…。」


サンチョは大きく息を吸ってこう言った。


「ストロスの杖です。」

「杖ぇ?」

思わず声を出してしまった。だって、杖だよ、杖。普通考えつかないよ。

「ストロスの杖とは、女神様の力が―――」

僕の言葉を無視してサンチョは話し始めた。でももうサンチョの話は僕の耳には入って

いなかった。

「タバサ、聞いた?杖だって。」

「聞いてたよ。だってさっきもサンチョ言ってたし…。お兄ちゃんが聞いてないだけ…。」

「…。まあとにかく明日出発なんでしょ?サンチョもそんな訳分かんない話なんかして

ないではやく準備しようよ!」

「も、もしかしてレックス様、また聞いてなかったのですか?人が真剣に話している

のに訳分かんない話だなんて…。」



サンチョが起こり気味の口調でそんなようなことを言っていたがもう僕の耳には入っていない。



その夜、つまり出発前夜かな?

翌日からの楽しい(?) 冒険に心を弾ませていた僕にタバサが話しかけてきた。

「私たちきっとお父さんにもお母さんにも会えるよね?」


たったそれだけの言葉だった。でも、子供の僕にとっても重い言葉だった。

確かに会えるという保証は無い。でも探す前から諦めていてどうする?

お父さんもお母さんも僕たちを待っているはずだ。なんとしても探し出さなきゃ。


「きっと会えるよ!だって僕たちが探すんだもん! ね?タバサ。」

もはや理由になっていなかった。でもタバサのためにも、こう言ってあげるべきだよね。

「うん。そうだよね。明るいお兄ちゃん…。大好き!」

…思いもかけない言葉に動揺した。妹に大好きって言われただけなのに。

「あ、何赤くなってるの?」

は、恥ずかしい…。

「でもその前に杖を探さなきゃね。え〜と、スト…、何だっけ?」

さりげなく話を戻すとタバサも乗ってきた。

「ストロスの杖だよ。お兄ちゃんってば…。明日から行くんだよ。大丈夫?」

「うん。でも、ストロスの杖とか言われても難しくてよく分かんないよ。」

「ははは、そうだね。お兄ちゃんらしいや。じゃあもう寝るね。おやすみ。また明日ね。

今度グランバニアに帰るときにはお父さんとお母さんと一緒だよね?」


そうだ。今度ここに帰るときには必ず、一緒だ。僕たちが絶対に助けてみせる。

待っててね、お父さん、お母さん。

そして夜が明けた。


今日は出発の日。

今日は朝からみんな大忙しだ。お城のみんなが僕たちの出発のために何か開いてくれるらしい。

そんな忙しい中、僕たちはお城のテラスにいた。ここから見える景色は美しく、そして

荘厳で、今この世界にお父さんとお母さんをさらった悪い魔物がいるなんて信じられなかった。


「もう当分この景色は見られないね。」

タバサから口を開いた。タバサは続ける。

「お兄ちゃん。もし、お父さんとお母さんと一緒にここに帰れたらさ、その時は―――」

タバサが続きを言おうとした時、後ろのドアが突然開いた。

「レックス様、タバサ様、こんなところにいたのですか?探しましたよ。ささ、もう準備は出来ています。みなさんがお待ちですよ。」

サンチョに連れられて階段を下りると皆が集まっていた。

何が「みなさんがお待ちですよ」だよ。僕はまだタバサと一緒にいたかったのに…。さっ

きのタバサの言葉も気になるし。いったい僕になんて言おうとしてたんだろう。

「何ボーっとしてるの、お兄ちゃん?」

タバサに声をかけられふと我に返る。気がつくとオジロンからの餞の言葉ももう終わろうとしていた。

オジロンの言葉も終わり、皆からも一言ずつ言葉をもらう。本気で王の帰りを待ちわびている者もあれば、建前なのが見え見えな者もあり、出発する側としては少々複雑な心境だった。

「じゃあ、そろそろ出発しましょうか?」

サンチョが声をかける。

「うん。タバサももう出発していいよね?」

「うん。早くお父さんとお母さんを助けてあげようね。おっと、その前に杖が先だね。」


「それじゃあ、いってきまーす!」

三人で元気な声を上げ、グランバニアの地をを発った。

「で、まずはどこへ行くの?」

ほ〜ら来た。旅に出れば最初にこの質問が来るであろうとは思っていた。これだから話

を聞けって言ってるのに…。

「だから昨日あれほど説明したじゃないですか!」

サンチョは呆れた声で地図を広げ、話し始めた。

「いいですか?今私たちがいるのはここ、グランバニアですよね?先ずはすぐ南にそび

えるこのヴォミーサ山脈を越えます。山頂にはチゾットと呼ばれる村がありますから、

今日はそこを目標に進みましょう。」

「ふ〜ん。で、どんくらいかかるの?」

本来なら昨日交わされるべきだった会話である。


その時、列の最後尾にいたタバサが悲鳴を上げた。

「魔物か?」

サンチョとレックスはほぼ同時に身構える。

オークキングがタバサの背後から襲いかかったのである。

幸いオークキングの槍はタバサの髪をかすかに掠めただけだ。タバサの体に怪我は無い。

だがレックスはもう怒りに体を任せてオークキングに飛びかかっていた。


僕の妹、タバサを傷つけた。しかも後ろから襲い掛かるという卑怯な手で。

もはやその時レックスに理性は無かった。天空の剣を振り回す。型もぐしゃぐしゃだ。

無理も無い。これがレックスにとっての初めての戦闘だった。

レックス専用の、レックスの体に最も合った剣で切り付けられたオークキングは一撃で 絶命した。

「大丈夫か?タバサ!」

タバサに駆け寄る。

「大丈夫よ。ちょっと掠っただけだから。」

大丈夫そうなタバサを見てレックスの顔に安堵の表情が浮かんだ。

「ありがとう。お兄ちゃん。」

タバサは微笑んだ。

しかし、サンチョの顔は厳しかった。

「いけません!いきなり飛びかかっては。相手をもっとよく見極めなさい。考えること

が大事です。レックス様のおじい様は天才的な方でした。非常に美しく戦っていました。

まぁ、実践で鍛えていくしかありませんね。でも、今回はよくやりました。初めての戦闘にしては上手でしたよ。」

なんだか怒られたのか褒められたのか分からないレックスは呆然とその話を聞いていた。

「とにかく、もっと経験を積みましょうね。」


なんだよ。サンチョはただ見てただけじゃないか…。でも、稽古と実戦はやっぱ違うや。

僕もがんばらなきゃ。そしてタバサを守ってあげなきゃ。

レックスは強く決意した。僕はタバサを守る!


「じゃあ、進みましょうか。」

三人で何時間か歩くと山脈の麓に着いた。トンネル状の穴が開いていて、そこから山の

中に入れそうだ。

「ここから進みましょう。」

サンチョは言った。冒険慣れしているサンチョは洞窟など別にどうって事無かった。

でも、レックスとタバサは違った。

僕、洞窟なんて初めてだよ…。前遊びに来た時もこの山の近くには来たこと無かったし、

さっきタバサを守るって決めたけどちゃんと戦えるかなぁ…。


一方タバサも

私、怖い…。でもさっきもお兄ちゃんに助けてもらったし、これ以上足手まといになり

たくない。これからちゃんとやっていけるかなぁ…。


「タバサ…。」「お兄ちゃん…。」

二人がほぼ同時に言った。

「手、繋いで…。」

そう言い出したのはタバサだった。レックスは少し恥ずかしかったが、しっかりとタバ

サの手を握り締めた。


そして、三人は洞窟の中へと入っていった。


洞窟は広く複雑で、まだ幼いレックスとタバサにはきついものがあった。

頼りのサンチョも道に迷ってしまったみたいだ。

「ちょっと、サンチョ。ここさっきも通ったよ。」

「そうでしたっけ?最近年のせいで物忘れが…。」

「ねぇ、サンチョって何歳なの?」

「…。あっ、あっちにも階段が。向こうに行ってみましょう。」


サンチョにうまく話を逸らされた。僕に歳聞かれるのそんなに嫌なのかなぁ?


「お兄ちゃん。」

不意にタバサに話しかけられる。

「あのね、私怖い。ちゃんと杖を見つけられるか不安なの。お父さんとお母さんを助けら

れなかったらどうしよう…。」

タバサの目に涙が浮かぶ。


そうさ、僕だって同じだよ。怖いよ。でも僕は勇者なんだ。お母さんは生まれたばかり

の僕たちをかばってくれたんだ。サンチョがそう言ってた。だから今度は僕たちの番な

んだ。絶対に杖を見つけ出す。そして絶対に助けてあげるんだ。

怖がってちゃいけない。そしてタバサを怖がらせちゃいけない。


「大丈夫。僕がついてるよ。絶対に助けてあげられるよ。」

「ありがとう。お兄ちゃん。」

タバサと繋いでいる右手にぐっと力が入る。


そうこうしているうちに光が見えてきた。

出口だ。僕たち、もうずいぶん歩いてたんだ。そういえば階段もいっぱいのぼったな。

僕は思わず走り出した。タバサも一緒に走り出す。

「ちょっと、そんなに走らないでくださいよ。」

サンチョも後ろからついてくる。

そして洞窟を抜けた。

もうすっかり日は暮れていた。山頂に大きなつり橋がかかっている。どうやらあの橋の

向こうにあるのがチゾットの町らしい。つり橋からはグランバニアの国も見えた。


「ねぇ、タバサ。見てごらんよ。グランバニアの国があんなにちっちゃく見えるよ!」

「…お兄ちゃん。高いところ、怖い。早く橋渡りきっちゃおうよ…。」

「あ、そっか。タバサは高いところ嫌いだもんな〜。」

なんて言いながら橋を渡りきり、チゾットの町に到着した。「すごいね、こんな山の上にも町があるよ。」

「まずは宿屋を見つけましょう。」

サンチョはすぐに宿屋を見つけた。どうやら宿屋探しは得意らしい。(もっとも、この町

の宿屋を探すのはそんなに難しいことではないのだが。)

「レックス様はタバサ様と同じ部屋でよろしいですね?」今までお兄ちゃんとは毎日一緒に寝てた。

でも、なんで私は今、こんなに緊張してるんだろう。今までと同じ、何も変わらないのに…。


「タバサ。また一緒の部屋だね。」

「う、うん。そうだね。」

普通に振舞ったつもりだったが、少しぎこちなくなってしまった。

なんでなんだろう……。

タバサの中には、レックスに対する兄としてではない、別の感情が芽生え始めていた。


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