チゾット宿屋にて。
「タバサ、今日は疲れたね。初めての洞窟、タバサはどうだった?」
「え、あ、うん。初めての洞窟怖かったよ…。」
「何だよタバサ。どうかしたの?」
「ううん、なんでもない。ごめんね、お兄ちゃん。」
タバサの僕に対する態度は明らかにいつもとは違った。
…嫌われちゃったのかな?
レックスはまだ気づいていなかった。
オークキングに襲われた時、自分の危険を顧みずにオークキングに向かっていったレッ
クスの姿に、タバサは心を奪われたことを。兄としてではなく一人の男性としてレック
スの事を好きになってしまったことを。
「ねえ、お兄ちゃん。出発する時にさ、私が言おうとしていたこと覚えてる?ほら、サ
ンチョが来て結局言えなかったこと。」
「うん。覚えてるよ。お父さんとお母さんと一緒に帰ったらってやつだろ?」
「うん。それ…。大した事じゃないんだけどね、お父さんとお母さんが帰ってきたらみんなでピクニックに行きたいんだ。お弁当持って、みんなでお弁当を……、うっ、ごめんね。お兄ちゃん。う、うまく、話せないの…。」
そう言ってタバサは泣き出した。
「ご、ごめんね。お、お兄ちゃん、大好き…。」
「タバサ…。」
その時、僕にはうまい言葉が浮かばなかったんだ。
何か喋ったら僕も泣いてしまいそうで…。タバサの前では僕の弱いところを見せたくな
かったから。だからただ無言で抱きしめてあげたんだ。
その晩、二人は手を繋いで寝た。
「お兄ちゃん、離さないでね…。」
翌朝
「お兄ちゃん。起きて!もう朝だよ!」
タバサはいつもと変わらない様子だった。いや、むしろ今までよりも元気な声で僕を起こしてくれた。昨日は嫌われたかな?って思ったけどどうやらそんなこともないらしい。よかった。
「あ、タバサ。おはよぉ…。」
「おはよぉじゃないでしょ!早く顔洗ってきなよ。」
「うん、行ってきます…。」
ありきたりな会話が交わされる。ただ一つ違うのはここがグランバニアの寝室ではなく、
チゾットの宿屋だということだ。
「あれ、サンチョは?」
顔を洗ってきたレックスはサンチョの姿が無いことに気づく。
「サンチョなら村の人に聞き込みに言ってるよ。ストロスの杖のありかを知ってる人はいないかって。」
「あのさ、タバサ。僕たちもこの村のいろいろなところを見に行かない?昨日は全然見れなかったからさ。」
「うん。いいわよ。お兄ちゃん、行こ!」
タバサが元気を出してくれて本当によかった。もし昨日のままだったら僕はどうしようかと思っていた。でもいらない心配だったみたいだね。
宿屋から出ると、昨日は暗くてよく分からなかったのだが、うっすらと雪が積もっていた。
「うわぁ。白くてきらきらしてる。」
グランバニアでは冬もあまり雪が降らず、二人にとって雪は本の中の物だと思っていた。
タバサは雪をすくってみる。
「ねぇ、お兄ちゃん。すっごく冷たいよ。」
レックスも雪をすくおうとした刹那、足元が滑って派手に転んだ。
「ちょっ、お兄ちゃん。大丈夫?」
「いてて。これ、つるつる滑るんだね。」
「そうよ。私、知ってるよ。本で見たことあるもん。」
「知ってるんだったらもっと早く言ってよ、いたたたた。でもタバサ、昨日ここに来た時は雪なんて全然気づかなかったね。」
「うん。暗かったし、疲れてたからだよ。きっと。」
レックスは立ち上がり、あたりを見渡す。
きれいな景色だ。お城のテラスから見る景色とどっちがきれいだろう…。今度、お父さんやお母さんにも見せてあげたいな。
「ねぇ、タバサも見てみなよ。きれいだよ。」
「下を見るの怖いから見ない!」
「下をじゃないよ。景色だよ。とにかくちょっと見てみなよ。」
タバサは恐る恐る後ろを振り向く。
「うわぁ、きれい…。」
「でしょ?今度、お父さんやお母さんにも見せてあげたいね。」
「うん、またみんなで来ようね…。」
実は七年ほど前に、まだ若い夫婦がこの村でいろいろと世話になったのだが、そんなことを、レックスとタバサが知る由もなかった。
一方こちらはサンチョ
「で、その杖について何か知りませんかね?」
「ごめんなぁ。ちょっと分かんねえよ。でもな、あんたこの山を北から登ってきたんだろ?
今度は南に下れ。下って少し行くと、ネッドの宿屋っちゅうとこがあるだ。そこの宿屋は旅人が結構立ち寄るからもしかしたらなんか分かるかも知れねえよ。」
「ほ、本当ですか?ありがとうございます。このサンチョ、今日ほど嬉しい日は…。」
「何泣いてるだよ…。」
「あ、サンチョだ。お〜い。」
レックスとタバサが通りかかる。
「レックス様。タバサ様。次の目的地が決まりました。次の目的地は、ネッドの宿屋です!」