「ねえ、サンチョ。そのナントカの宿屋ってどこにあるの?僕もう歩き疲れた…。」
「もう少しです。あとちょっとだけ我慢してください。」
レックス達はネッドの宿屋に向けて山を下っていた。登ってきた洞窟とは違い、下りは主
に山道だった。
ただ、傾斜はきつくレックスとタバサの足には少々こたえるものがあった。
「サンチョ。足が痛い…。休憩しよう…。私も、もう限界…。」
「しょうがないですね。じゃあ少しだけ休憩しましょう。」
三人で木陰に腰を下ろす。もう半分くらい来ただろうか。
「グアァァァ…。」
その時、三人の背後で唸り声が聞こえた。それに一番に気がついたのはレックスだった。
さっと天空の剣を身構える。
「魔物?」
それに続きサンチョとタバサもそれぞれ武器を構える。二匹のドラゴンマッドが三人を睨んでいた。
レックスの頭の中に、出発前にグランバニアの兵士に言われた言葉が蘇る。
「レックス様。魔物に出会ったらまず弱点を見つけるんです。多くの場合、その弱点は首です。
戦いを長引かせてもこっちが不利になるだけです。ですから一撃で決めるんです。」
そういえば、サンチョも同じようなことを言ってたな…。
そうか、首か…。
今回のレックスは驚くほど冷静だった。落ち着いてドラゴンマッドの首に狙いを定める。
そして、相手の一瞬の隙をついて思いっきり切りつけた。
「ガアァァァ…。」
崩れ落ちるドラゴンマッド。
そしてもう一匹。タイミングは同じだった。同じように隙をつかれて二匹目も崩れ落ちる。
その戦いをただ呆然と見ていたタバサとサンチョ。
サンチョが口を開いた。
「す、すごいじゃないですか。確かにこの間よく見極めろとは言いましたけど、こんなに落ち着いて弱点に攻撃できるとは・・・。」
あれ、僕もう倒しちゃったの?サンチョやお城の兵士さんに言われたように攻撃しただけなのに…。
しかし一番驚いていたのはレックス自身だった。レックスには戦いの才能があった。
おそ らく彼に流れている天空の血がそうさせたのだろう。
「お兄ちゃん、すごい…。」
しかし言葉とは裏腹にタバサは悲しそうな顔をしていた。
「なんか休憩とったのに余計疲れちゃった…。」
「そうですね。ネッドの宿屋まで休憩をとらずに行ってしまったほうが安全かもしれませんね。」
「うん、じゃあそうしよう!タバサもそれでいいよね?」
「う、うん。いいよ!」
タバサも一生懸命元気な素振りを見せている。
いや、自分の気持ちを整理出来て本当に元気になったのかもしれない。
歩くことそれから数時間。
地面の傾斜が急に緩くなった。どうやら山は下りきったようだ。
「見て、タバサ。僕たちあんな高いとこから下ってきたんだね。」
今下ってきた山の頂上を指差しながらレックスが言う。
「うん。今考えるとすっごい高いとこだね。高いとこ怖いです…。」
「あはは、タバサは怖がりだなぁ。」
「お、お兄ちゃんのいじわる〜!」
「ははは、仲がいいのはいいことですね。おっ、あれがネッドの宿屋じゃありませんか?」
だだっ広い平原の中央にぽつんと一軒だけ立つ家。おそらくあれがネッドの宿屋だろう。
この辺りには他にそれらしき建物は見当たらない。
レックスが走り出した。それに続けてタバサとサンチョも。
一番に着いたレックスが、勢いよくその建物の入り口のドアを開けた。
「こんにちは〜。」
「あ、いらっしゃい。お坊ちゃん一人かい?」
サンチョとタバサも遅れて到着した。
「ぜぇ、ぜぇ、レックス様速いですよ…。あ、それよりここがネッドの宿屋ですか?」
「はい。そうですが…。みなさんお泊りですか?」
「いや、ちょっとここのオーナーのネッドさんとお話があって。」
「あ、オーナーならこの建物の裏にいると思いますよ。」
「分かりました。ありがとうございました。」
三人で建物の裏に回る。そこにいたのは一人の老女だった。
サンチョが尋ねた。
「あ、あなたがネッドさんですか?」
「私がネッドだよ。あんた、私の知り合いかい?歳をとると物忘れがひどくていかんな。」
「あの、ちょっと聞きたいことがあってですね―――」
サンチョはここに来た理由を話し始めた。
「ねぇ、タバサ?こういう話は長くなるから他のところ行かない?」
「ダ〜メ!ちゃんと話聞いてないとあとで困っちゃうよ。」
「そ、そっか…。」
怒られちゃった…。でも僕が話をちゃんと聞かないでみんなに迷惑かけるの嫌だからちゃんと聞いてなきゃね。
レックスも話に耳を傾ける。
「ストロスの杖?聞いたことも無いね。ここは結構旅人が泊まっていくけど誰もそんなこと喋っていかなかったな。」
「そうですか…。じゃあ何か言い方法はありませんかね?その杖を見つけるための。」
「う〜ん。あ、そうじゃ。海に出て北へ行くと、オラクルベリーという大きな町がある。そこへ行けば何か見つかるかも知れんな。いいか?海へ出て北じゃ!」
あ…。
三人で顔を見合わせる。僕たち、船持ってないや…。
「そ、その顔は…。さてはおぬしら船を持ってないな?」
「は、はい…。私たち、グランバニアから歩いてきたんで…。」
「もし、杖が他の大陸にあったらどうするつもりだったのじゃ?」
「え、そ、それはですね…。」
まごつくサンチョ。それを見てくすくす笑う二人。
「サンチョも結構ドジなとこあるね。でも、どうするつもりだったんだろうね?」
「分かんない…。っていうか、私たち何で今まで気づかなかったんだろうね…。普通ならもっと早く気づくって…。」
呆れた声でネッドが言った。
「仕方ない奴じゃの。で、どうするつもりなのじゃ?」
「え、じゃあ今からグランバニアに戻って…。」
「おぬし、そんなことをしている暇はあるのか?しょうがないな、もし私の船をおぬしらに貸してやるといったらどうする?」
ずっと暗い表情だったサンチョの顔がみるみる明るくなる。
「ほ、本当ですか?貸してくれるんですか?」
「全く…。そうでもしないとおぬしら海を渡れんだろ?ぼろくて小さい船だがおぬしら三人が乗るぶんじゃ大丈夫だろ。よし、明日までには中を整理しておくから今日はここに泊まってけ。」
「ありがとうございます。お金ならいくらでも出します。ありがとうございます。このサンチョ、今日ほど嬉しい日は…。」
「泣くな泣くな。金は今日の宿泊分だけでいい。船はただで貸す。ただ、私が貸してやったんだから、絶対にその杖を見つけ出しな。」
「はいっ!」
三人で元気よく返事をした。
その夜
「お兄ちゃん。私、船に乗るの初めて。」
「僕もだよ。楽しみだね。」
「うん…。絶対杖見つけようね。」
「当たり前だよ!さ、タバサ。もう寝よ。」
「うん、お兄ちゃん。おやすみ。」
そして夜が明けた。
「お兄ちゃん。朝だよ!起きて!」
タバサの声で目が覚めた。あ、そうか!今日からは船に乗って旅するんだ!
今日のレックスは張り切っている。初めての船旅が楽しみなのだろう。いつもと違い、今日は起こされるなり自ら進んで顔を洗いに行った。
「ねぇ、サンチョ。今日のお兄ちゃんなんか違うね。」
「船旅が楽しみなんでしょうね。タバサ様は?」
「うん。私も楽しみ。船って乗ったこと無いもん。サンチョはあるんだよね?」
「はい。あなたがたのおじいさまと一緒に船で旅をしていたことがありますよ。」
「へぇ、サンチョが?いいな〜。」
そこへ顔を洗ってきたレックスもやって来た。
「サンチョ。いつ出発するの?」
「今ネッドさんが最後の仕上げをしてくれています。もう少し待ってましょう。」
「うん。もう少しの辛抱だね!」
三人で話をしていると、ネッドが入ってきた。
「おい。おぬしたち。船の整理が終わったぞ。」
「えっ、サンチョ!タバサ!行こうよ!」
レックスは走って外へ出ていった。外にあったのは多少古いながらもしっかりした船で、
三人が乗るには少々勿体無いくらいの船だった。
「へぇ、立派な船だ…。」
サンチョも驚きの声を漏らす。
「ネッドさん。昨日言ってた船と全然違うじゃないですか。こんな立派な船を本当にお借りしてもよろしいんですか?」
「構わんよ。ただし、絶対にその杖を見つけ出すんだよ。私が言うのはそれだけじゃ。」
「本当にありがとうございます。では、行ってきます。」
「行ってきま〜す。」
三人はそう言って船に乗り込んだ。
「操縦はこのサンチョにお任せください。」
「うん。サンチョ、頑張ってね。」
そして三人を乗せた船はゆっくり出発していった。
「頑張れ。おぬしらはまだ若い。あの子達なら私が叶えられなかった夢を叶えてくれることが出来そうじゃ。あの船もあの子達に使われるんじゃ本望じゃろうて。」
杖を探しに 第一部 完